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ちば先生も知らなかった、ちばてつや。「みなもとさんよく調べたね」~ちばてつや・みなもと太郎マンガの歴史を語る〜 後編

 9月8日(金)に『マンガの歴史1』の刊行記念として、ちばてつや先生、みなもと太郎先生のトークショー「ちばてつや・みなもと太郎、マンガの歴史を語る」が行われました。その様子を前・中・後編の3本立てでお送りしている今回、こちらが最後の後編となっています。

 

岩崎調べる学習新書 (1) マンガの歴史 1

岩崎調べる学習新書 (1) マンガの歴史 1

 

 

中編は、あしたのジョーの誕生秘話や、みなもと先生にしか聞けないコマわりの話が飛び出しました。最後となる後編は、ちば先生もびっくりの『あしたのジョー』の原点の話や伝説の電気あんまの話も飛び出し、会場のボルテージは最高潮に。それでは最後までお付き合いをよろしくお願いします!

 

前編はこちら↓

ちば先生も知らなかった、ちばてつや。「みなもとさんよく調べたね」~ちばてつや・みなもと太郎マンガの歴史を語る〜 前編 - 岩崎書店のブログ

中編はこちら↓

ちば先生も知らなかった、ちばてつや。「みなもとさんよく調べたね」~ちばてつや・みなもと太郎マンガの歴史を語る〜 中編 - 岩崎書店のブログ



あしたのジョーの原点があった!? 今夜は眠れない

 益子かつみ先生の『鉄拳涙あり』という雑誌日の丸に連載した作品ですが、ご存知でしょうか?

ちばてつや みなもと太郎 マンガの歴史
 益子かつみさん? 先輩ですね。

 日の丸で連載していて、最初にボクシングで死んでしまったボクサーの仇を打つ話ですが、この主人公の名前が矢吹なんです。

ちばてつや みなもと太郎 マンガの歴史
(会場騒然)
 えぇ! それは知らない。

 その矢吹くんのお父さんを殺してしまった年老いたボクサーが、矢吹少年がチンピラと戦うところを横で見て、いろいろと解説を読者向けに行います。

 これは初めてみました。矢吹っていうの? 主人公の名前? あらー。

 ここで矢吹が「どっからでもかかってこい」と言っているのを「おーあの構えはすばらしい」と見ている人がいます。

ちばてつや みなもと太郎 マンガの歴史
 段平ですねこれは。
(会場笑)

 この後もいくつか類似点はでてくるんですけど。

 ストーリーも?

 この後、矢吹くんが強いのとやり合って、少年院には入りませんが、留置場で仲良くなります。
(会場笑)

 へー。それはマンモス西じゃないですか。
(会場笑)

 それでヒロインの方はみなし子たちを一生懸命に集めます。

 へー。白木葉子?
(会場笑)

 いや 白木葉子ではなくて、タイガーマスクの世界に近いです。

 これはびっくり。すごいね。全然知らなかった。

 あとは、ハーフの不良少年が出てきますが、名前が「ジョー」です。
(一同爆笑)

 益子かつみさんのオリジナル作品ですか?

 はい。これは完全なオリジナルです。こういう先行作品があることはあるんです。

 今晩眠れない、私。
(一同爆笑)


自分の人生これでいいのか 自分とジョーを重ね合わせる日々

 矢吹丈という名前は先生ではなく梶原さんが考えたんですか?

 「矢吹」っていうのはね。ただ「丈」の方は、私が『走れジョー』とか、『紫電改のタカ』で滝城太郎を使っていたんですよ。私が満州から引き揚げてくるときに、助けてくれたのがジョさんでそれで引っかかってるのかもしれないけど。
それでちばくんはジョーという名前が好きなんだなということを梶原さんが慮ってくれたのかなって。でもまぁ、みんなで打ち合わせしているときに、キャラクターの名前も決まってたような気がしますね。

 『走れジョー』が随分記憶にありますので、ましてやロゴも同じでしたから。ちば先生のロゴですよね? 『走れジョー』と『あしたのジョー』のロゴは。

 そうですか。ちょっとよく覚えてないんですけど(笑)これはだけどすごいね!

 どうも私はちば先生の心臓を悪くするようなことばっかり。
(一同大爆笑)

 そんなに嫌な気持ちじゃなくてね。すごいなと思って君は。原点を見つけてくれてありがとうございます。梶原さんか私か宮原さんがどこかで見ていたのかもしれないですね。

 どこかの記憶にあったのだと思います。他にも聞きたいことがありまして、特等少年院全員が健忘症になるのはどうしてでしょう? 最初に力石が登場してジョーを殴ったときに周りの人たちが、「力石さんのクロスカウンターが出た」と言っているわけです。その随分後に、ジョーがクロスカウンターの練習をしているときに「なんの練習をしているんだろう」って、少年院の全員が(笑)。
(会場笑)
で、段平が「その名もクロスカウンター」と言って「え!そんな技がこの世にあったのか」と。
(会場笑)

 重箱のすみばかりを突くような。

 前を読まない弊害がたくさん出てきますよね。

 それでいいと思います。

 良くないよ。
(会場笑)

 だけどいい加減に描いているわけじゃないんですよ。

 わかります。

 一生懸命描いてるんですけど、毎回毎回夢中になって描いていて、前のことは忘れちゃうんです。

 それでいいと思います。あとは、のりちゃんと話している場面で「後には真っ白な灰だけが残る」という場面をリアルタイムで読んだときに、最終回の伏線を張り始めたという寂しさを感じたわけです。

 それは違います。

 だからそれがおかしいんです。

 え、なんで?

 もうあの時点から計算はなさってたはずなんです。ちば先生。

 ……。
(会場笑)

 それは、お言葉を返すようですけど(笑)、のりちゃんと話しているシーンを描いている頃は、私が一番体力を消耗していたときでした。ごはんを食べながらテレビを見ますとね、私と同世代の人たちが海や山や海外へ行って青春を謳歌しているんですよ。それで「同い年のやつがこんなに楽しい人生を送ってるのにお前は何をやっているんだ。毎日毎日目を真っ赤にしてね。人生終わっちゃうぞこのままだと」と。ちょうどその頃十二指腸潰瘍やってる時期で、精神的にも追い詰められてストレスも相当あったんだと思う。そこでマンガを描きながら自分の人生これでいいのかというのを自問自答し始めたんですよね。その気持ちをジョーに託して描いたのは自分でもはっきり覚えています。だけどね。考えてみたらね、自分はマンガを描く意外は本当に能がなくて、いろんなことで失敗して、「てっちゃん、明日からもう来なくていいよ」って、どこへ行っても言われたんですよね。でもマンガだけは憧れて、それが仕事になったということで、私はこれしかないと思って、いい作品も少し描いてきたし、家族も落ち着いてきたし、もう明日死んでもいいじゃないか。という風にふっと思ったんです。

 それがのりちゃんとの会話になるわけですか?

 そうですね。私もそのときに自分のことを描いているという風に思いながら描いていました。あれはちょっと申し訳ないんですが、梶原さんの原作にはない話です。ただただジョーに思いをはせながら、ジョーだったらどうなんだろうって重ねて考えていたかな。減量しているけど、一番食べたい盛りじゃないですか。それから恋もしたいし、遊びにいきたいのに、なんでこんなに松脂くさいところで力石と打ち合ったり、段平のタバコくさいところでね。これで人生終わっていいのかということを問いかけながら描いていたんですよね。

 それで私は最終回向けだと思ったんですよね。

 いやいや、もし伏線だったらあんな小さいコマじゃないですよ。ラストシーンをどうするか悩んでいたときに、ヨシダマサヒロさんという編集担当がゲラをずっと読んでくれて、例の、のりちゃんと話すコマを見つけて、ここはお話の核があると思いますって言われたんです。私はゲラは読まないって言ったんだけど、この回だけは読んでごらんって言われました。ヨシダさんが言ってくれなかったら、あのラストシーンはなかったな。
 普段それだけゲラ読まないんですか?

 読まない。
(会場笑)

 先生、これさっきの。あしたのジョーの2巻なんですけど、力石がジョーをノックアウトするんですけど、その後に周りの人が「力石必殺のクロスカウンター」って。

ちばてつや みなもと太郎 マンガの歴史
 そんなのわざわざ出さなくても。
(会場笑)
 わざわざ出さなくても。
(一同爆笑)
 すいません一応。

 あと私がちば先生の作品で印象に残っているのは、向こうから主人公が歩いてくる場面です。『ちかいの魔球』で二宮光が歩いてきてバストアップまで来たときに、それまでうつむいていた帽子のひさしがパラっと外れるんです。その顔の下に傷があって、よく見るとあちらこちらにあざがあって、何かあったんだなってことがわかる場面があります。それまでの手塚治虫などがやってきたのは主人公が向かってくる時間経過だけを表現しているんですが、ちば先生は、時間経過ではなくて、ドラマがそこに入っちゃてるんです。それが二宮光の場面しか私には記憶がないので非常に印象的でした。


生で聞いたマンガの歴史

 『マンガの歴史1』を読んだら、日本がなぜこんなにマンガが読まれるようになって、どうしてマンガの作家かそんなに育ったのかということを非常にわかりやすく書いてあります。いい本書きましたね。

 岩崎社長の意向で、小学生にもわからなくてはいけないと。だけど大人が読んで感じなきゃいけないと。

 でもずいぶん勉強になりましたよ。

 Amazonのコメントに「ちば先生のことをちゃんと捉えている」というのが載っていたんで、私も安心しました。

 トキワ荘とか、手塚治虫先生がさいとう・たかを先生にライバル心を燃やすとこともすごく面白いね。えーそうだったのっていうのがたくさん載ってる。

 先生なんかリアルタイムでさいとう先生とのお付き合いがあるから、こんな話は全部ご存知で、「ふん」という程度かと(笑)。

 ちらっと聞いたことはありますよ。さいとう・たかをさんが手塚治虫さんに挨拶に言ったら、不在と言われたから菓子折りだけ渡して、門のところでちょっと振り向いたんですって。そしたら、柱の陰から手塚先生が覗いてたっていう。さいとうさんから聞いた話。
(会場笑)

 でも、手塚先生は絶対そんなことはしてないって言ってたみたいです。やっぱり生で聞かれましたか。

 さいとうさんは、手塚さんの影響を受けたみたいなので、菓子折りを奮発してお礼も兼ねて挨拶に行ったみたいですね。


電気あんまで大ケガ事件

 もうお時間が来てしまったので、あっという間の2時間だったんですけど。

 もう2時間経ったの。

 もう2時間経ったんですか。

 会場からの質問はありますか?

お客さんA ちば先生が電気あんまをして死にそうになって、トキワ荘に助けていただいたという話を伺えますか? 

 昔は遊ぶ道具がなかったから、何でも遊びになったんですよね。電気あんまって言って、相手の両足をつかんで、股間を足でかかとでがりがりってやるんですよ。すごく屈辱的で苦しいんですが、なんかやっぱりストレスでしょうね、それで盛り上がって、私の仕事場で流行っていたんですよ。
(会場大爆笑)
ち それを編集のアライさんって、さきほど「これがちばさんのテンポなんだから」ってかばってくれた人。あの人にかけちゃったんですよ。
ある日、締切間際に講談社の別館で缶詰になってたんですけど、ネームがそろそろ終わるから明日からペン入れできるねという話をして、編集担当のアライさんが帰っていきました。ところがもう1度読み直してみたら、おかしいなというのがいくつかでてきたので、ネームを最初から描き直しました。それでアライさんが次の日来たときに、まだネームをやっていたので怒り出したんですよ。「ちばさんはこれだからな」「プロじゃないな」とかぐちぐち文句言ってね。私は最初から描き直してたから寝てないんですけど、しょうがないから「ごめんね」って言って。それで視線を感じたから、ふっと向こう側を見たら弟のあきおがぐるーって回り込んでね。

ちばてつや
ち 笑ったんですよ、にやっと。それでぼくが、机の上のインクの蓋を締めたり、はさみとか危ないものは全部片付けたりしてね。
アライさんが「何してんの?」って言ったときにはもう遅い。アキオがアライさんを後ろからガガッと抱えるんです。私が飛んでいって足を捕まえて電気あんまをかけたら、思いっきり私の胸を蹴りとばしたんですね。アライさんも屈辱的で、原稿が遅れたところにもってきて、こんな電気あんまなんかかけられて、腹が立ったんだと思います。
(会場爆笑)
ち それでバーッと飛ばされて、ガラスの中にガシャンと突っ込んで、体中にガラスの破片が刺さりました。それでアライさんもびっくりして、運がいいことに、別館の裏に東大の分院があったので、そこへ敷布で体中ミイラみたいに包んでね。アライさんとあきおが私を引っ張っていきました。目もほとんど見えなくて、血だらけで大怪我でした。
これは本当の話。右手の腱も切れちゃって、気の毒だけど使えませんよって。それで、じゃあ今度は左手で練習しなくちゃと思っていたんだけど、うまく腱をつないでくれていまだにちゃんと動く。だけどアライさんが本当にびっくりしてね。それは講談社辞めるまではずっと内緒だったの。
怪我をしてしまったから、トキワ荘に出入りしていた編集長の丸山昭さんが原稿を持っていってくれたんですよ。ちょっと血の付いた原稿を。
(会場笑)

ち そのときにね、キャラクターは石森さんが描いてくれて、背景やベタを赤塚不二夫さんが手伝ってくれたの。すごい豪華ですね。自分の仕事は終わって寝ようとしていたところだったのに、二晩くらいかけて描いてくれたんですよ。

 それは『リナ』ですか?  登場人物の顔がコマによって違った回のがあったので。
(一同笑)

 それは、私が疲れてたのかも。
(一同笑)
そのときは『ママのバイオリン』でしたね。

 それでは次の質問を。

お客さんB お話の中で、パクるという代替の名称がないかという話がでましたが、日本の和歌の技法の一つに「本歌取り」というものがあります。自分の心情を和歌に込めるために元の歌の一句を自分のこれから作る歌の一句にはめ込んで使うという技法ですが、そこからとりまして「ほんどり」とか、「もとどり」という名称ではいかがだと思いますか?

 はい。ありがとうございます。それもいいと思います。パスティーシュとかね。本歌取っていう言葉は確かにときどきあって。

 だから、「マンガ」の「画」で「本画取り」とか

 何か考えて作らなきゃいけないとは思ってます。ありがとう。

 ほんとにもうお時間いくらあっても足りないんですけども、時間になってしまいました。本日おこしいただいたみなさんにとっても、今日は素晴らしい時間だったのではないかと。
ちば先生が知らないことを、みなもと先生がたくさん知っているということが一番衝撃的で、(会場笑)
今日の会をひらかせていただいて良かったなと思いました。本当にありがとうございました。

 私はもっと聞きたいことあります。
(会場笑)

 どうもありがとうございました。みなもとさんがよーく調べていろいろね。教えてくれてありがとう。


最後に

みなもと先生の質問攻めに対して、ときには驚き、ときには笑いながら答えてくれたちば先生。お二人のマンガへの真摯な姿勢や、情熱に感動しながらも、数々の裏エピソードに爆笑の連続でした。
別れ際はガッチリ握手をして帰られたお二人、歴史的瞬間に立ち会えて幸せでした。
それでは、会場に来ていただいた皆様、そして最後までお読みいただいたみなさま、ありがとうございました。

 

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岩崎調べる学習新書 (1) マンガの歴史 1

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投稿者 大塚芙美恵