岩崎書店のブログ

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「きむらゆういちのゆうゆうトークショー」ミロコマチコさん<後編>トークショー

絵本童話作家のきむらゆういち先生が定期的に開催しているイベント「ゆうゆう作家トークショー」の訪問レポート。前編のライブペインティングの完成はいかに?さらに後編は、きむら先生とミロコマチコさんのトークショーの様子をお届けします。

前編を読んでくださった方は、ドキドキされたと思います。こちらがライブペインティングの完成の作品です!(撮影が下手でごめんなさい)

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イベントの後半はお待ちかね、きむらゆういち先生とミロコマチコさんのトークショーとなりました。 

絵を描いているとき、私も生きものになる

 

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きむらゆういち先生(以下、きむら) ミロコさんは彗星のごとく現れて、海外を含めあらゆる賞を一年で総なめ。展覧会も大盛況ですが、実は、デビュー前に書いていらしたのは文章だけで、絵は描いていなかったらしいですね?

ミロコマチコさん(以下、ミロコ)はい。当初はお話を書く人だったんです。絵は、絵の上手な友達に描いてもらっていました。

きむら お話を書き始めたのはいつごろですか?

ミロコ 高校を卒業してから人形劇団に入り、人形劇のシナリオを作り始めたんです。人前が苦手だったので、お話を作るだけの人をやりたかったのですが、人形劇団って大抵、人が足りないのでそうもいかず、蝶々や通り過ぎるネコの役などもやりました。そして、人形劇の原作は絵本が多いじゃないですか。どんな原作やろ、と思って読み始めたのですが、「こんなにおもしろい世界があったんだ、それなら私もやりたい!」と思い、友達に絵を頼んで絵本づくりを始めたんです。

きむら 絵を描きだしたきっかけは?

ミロコ だんだん、人に絵を描いてもらっても、自分のイメージどおりにならないことがわかってきたんです。それなら自分で描こうと思ったのですが、子どもの頃描いたきりで、絵のことは何もわからなくて。まずは絵のことを知りたいと思い、大阪のアートスクールの絵本コースに週一で通いながら、絵を描き始めました。そして、コンペに応募、受賞したのが、絵本を出すことになったひとつのきっかけです。

きむら 画材は主に何を使っているんですか?

ミロコ あるものはなんでも使います。オイルパステル、色えんぴつ、クレヨン・・・。

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自分がやってきた形跡が生きものになればいい 

 

きむら ライブペインティングは、驚きの展開でしたが、最初に構想があるのか、それとも描きながら構想が変わっていくんですか。

ミロコ 絵本はちゃんと考えるんですけど、こういうのは何も考えてなくて、適当です。ビニールを貼ったらしろくまっぽくなるかな、と思ったのですが、もし誰かが「あ、しろくまだ」と言ったら、変えようかなと思ってました(笑)。

きむら 常に過去を壊していくような、どうなっちゃうの?という、イメージをひっくり返すような緊張感があってね。あの絵好きなんだけどな、あ、つぶしちゃうんだ~と思いながら、見ていました。

ミロコ(ライブペインティングは)過程を見るものなので、最後はいつも、私は自分がやってきた形跡みたいなものが生きものになればいいなあと思っているんです。別に最後のこの形が大事なのではなく、途中の感じが既に生きものなので。

きむら ミロコさんの作品は、生きものに関するテーマが多いですが、テーマを選ぶ理由はあるんですか?

ミロコ 最初に生きものを描きだしたときは、ただ「造形がおもしろい」ことを理由に描いていました。いろんな生きものを描いて夢中だったんですけど、ふと、「なぜ私はこんなに生きものを描きたいんだろう?」と考えてみたんです。すると、絵を描いているとき以外は、私は生きていることを実感しにくいんだ、ということに気付いたんです。絵を描いていないときは、私はあまり生きていないんですよ。

きむら え~?

ミロコ それがイマイチだなあと思っていて。絵を描いているときは、すごく気持ちが向かっていっているんですね。でも、たとえばこうして、きむらさんとしゃべっているときなどは、注意力が散漫になっていまして、「目を見なくちゃいけないかな」「あごのひげを見ようか」とか、実はあまり話を聞いてないんです(笑)。そういうくだらないことにめっちゃ惑わされて、あまり大事じゃないことに気をとられがちなんです。でも、絵を描いているときは、絵だけのことを考えていて、それが、生きているという実感になるんです。なぜかというと、例えば、笑っている人の絵を描いていると、自分も自然に笑ってたり、怒っている人を描けば怒ったり皺が寄ったりして、絵を描いているときは、私も生きものになる。脚を描いているときは脚の気持ちになるし、目を描いているときは目の気持ちになる。自分が何かやっているという実感があって、気持ちいいんです。

きむら なるほどね、何か実績を残そうというんじゃなく、やっていることそれ自体が気持ちいいんですね。上手く描こうとかじゃなく。

ミロコ 一応考えます(笑い) 

きむら 動物を描くとき、形態は考えますか?

ミロコ これ(ライブペインティングのしろくま)も、多分ちぐはぐしていると思いますよ。歩き方が変。私の動物の絵は、いつも下半身が弱いって言われるんですよ。確かに今日も、下半身が弱い。頭のほうから描いて、大体おしりのほうのスペースがなくなるので、おしりをちっちゃくしちゃう。でも、それもいいか、と思ってます。あんまり思い通りにならないほうが好きなので。

きむら 以前、田島征三さんに「自分のイメージどおりに絵が描けないんですがどうしたらいいでしょうか」と質問したら、彼は「出来上がった絵を、描きたかった絵と思えばいいんだよ」というお答えでした。それに近いですね。

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「ああ、私はスケッチしないんだな」って思ってます

 

最後に、会場のお客様からの質問に答えていただきました。

 

質問1) 動物を描くときは、動物園などに行ってスケッチされるのですか?

ミロコ 動物園に行くのは好きなんですけど、スケッチはあまりしない。ず~っと見てます。おもしろすぎて、スケッチを描いてるひまがないです。本当はスケッチしたいなと思うんですけど、絶対せずに帰ってくるので、「ああ、私はスケッチしないんだな」って思ってます(笑)。でも、見ることで「カンガルーはだらしない」とか特徴は自分の中でつかんでるかな。形よりも、「走っているときにやたら力がある」とか、そういうことに興味があって、覚えてたりします。形状は図鑑などを見て描きます。

きむら 絵本作家のあべ弘士さんは旭山動物園の飼育係を経験されているから、動物の体のことを理解していて、一見、忠実でない描き方をしているようで、実は正しく描けているんですよね。ミロコさんの絵はあべさんに近くて、どんな描き方をしても、本来の動物の骨格とかにちゃんと合ってるんですよ。だからスケッチなどもしているのかなと思ったんですが、特別なことはしてないんですね。

ミロコ はい。じ~っと見たりするのはすごく好きなんだけど、何度も描くと飽きるので、ちゃんとスケッチして、それを直して・・・とかはしません。図鑑が優秀なんですね。

 

質問2) 絵を描こうと思ったときのことを、もう少し詳しく聞かせてください

ミロコ 私も子どもの頃は、絵を描くのが好きやったんやな、と思い出したことかな。でも、絵が上手い人が周りにいっぱいいたので…。先生も、隣で描いてる友達には「すごいね、はなちゃんのは上手ね~。マチコちゃんのは・・・なにかしら?」といった感じで、私は首を描いてるのに、「胴体がすごく細いわねえ」と言われたりしてました。今思えば、大人は悪気がないんです。でも私は、自分は絵がめちゃ下手なんやな、と思い込んでしまって。成長と共に音楽を好きになったり、高校の芸術選択科目でも、「私は美術じゃないんだ」と思いこんで音楽選んだりして、より美術から遠ざかってました。でも、再び描き始めたときに、すごく楽しかったので、子どもの頃に絵を描くことが好きだったんだと思い出したんです。勝手に自分で諦めたというか、ほかのものに興味がいってただけで。

きむら 絵を再び描こうと思った一番のきっかけは?

ミロコ 絵本をつくりたいという思いです。自分のつくったお話に、絵をつけたいと思って、大学生のときに「かめぴょん」という絵本をつくりました。カメがすきで、描いたカメ人間はめっちゃ下手だったけど、めっちゃ楽しかったんです。そうして絵を描く喜びを知ってから、絵本を何年も描かずに、絵ばっかり描いてた時期もありました。今は「絵本がやりたいんやった!」と思い出して、絵も絵本も両方やれているので、とても幸せです。

 

きむら 最後に、絵本作家をめざす方に何か一言お願いします。            

ミロコ まだそんなに経験を積んだわけではないので、人に言えることはないんですけど・・・好き放題やってください!(笑)

きむら ですよね。売れるために迎合するより、好きなことをした人が、最後に作家として残っている気がしています。今日はありがとうございました!

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まだ見ぬ才能に出会いたい 。それが自身の学びにもつながる

『あらしのよるに』『あかちゃんのあそびえほん』シリーズなど、数々のヒット作を手がけるきむらゆういち先生。その活動の場は、絵本・童話、小説などの作家としてだけでなく、造形、教育、テレビのアイディアブレーンなど、とどまるところを知りません。今回のミロコマチコさんのように、トークショーに出演する作家の展覧会には、必ず事前に足を運び、作品の力をご自分の目で確かめるという、きむら先生。ご自身が主宰する「ゆうゆう絵本講座」は、通学のほか通信講座も開設し、絵本づくりを学べる環境を惜しみなく、広く提供しています。

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「モノを作ることや、絵本、読み物…そのほかにも、長年多くの作品を作ってきました。まだまだアイディアや、やりたいことがたくさんあるのですが、それら全てをひっくるめた自分をぶつけて、新しい才能を見つけたい。そうすることで、自分自身も学び続けることができます。そんな思いで、講座生のみなさんと一緒に全員で学ぶ場として、この講座やイベントを運営しています。」

 

www.kimura-yuuichi.com

 

そんなきむらゆういち先生の集大成ともいえる工作本の決定版ができました!

小さなおりがみから大きなおもちゃまで、「おる・はる・とめる」という3つのテーマで構成した、驚くような動きの工作を紹介したシリーズ

「きむらゆういち式 うごく!かみ工作ランド」の世界を、ぜひご覧ください。 

 

 

きむらゆういち式 うごく! かみ工作ランド (1) おってうごかす

きむらゆういち式 うごく! かみ工作ランド (1) おってうごかす

 

 

きむらゆういち式 うごく!かみ工作ランド (2) テープでうごかす

きむらゆういち式 うごく!かみ工作ランド (2) テープでうごかす

 

 

きむらゆういち式 うごく! かみ工作ランド (3) とめてうごかす

きむらゆういち式 うごく! かみ工作ランド (3) とめてうごかす

 

投稿者:michelle

www.iwasakishoten.site

関連記事:「きむらゆういちのゆうゆうトークショー」ミロコマチコさん<前編>ライブペインティング 

 

 

「きむらゆういちのゆうゆうトークショー」ミロコマチコさん<前編>ライブペインティング

今回は、絵本童話作家のきむらゆういち先生が定期的に開催している「ゆうゆう作家トークショー」にお邪魔しました。この催しは、創作絵本教室「ゆうゆう絵本講座」の顧問を務めるきむら先生が、第一線で活躍されている絵本・童話作家をゲストにお迎えし、デビューのきっかけや制作の裏話など、普段聞けない話を聞こう!という、トークイベントです。

4月に行われた第11回のゲストとして招かれたのは、ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)で2年連続受賞されたミロコマチコさん。トークイベントに出演することは滅多にないというミロコさんの、貴重な生の声を聞こうと集まった聴衆を前に、ライブペインティングも行われ、会場は興奮に包まれました。

 

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きむらゆういち

東京都生まれ。多摩美術大学卒業。造形教育の指導、テレビ幼児番組のアイディアブレーンなどを経て、絵本・童話作家に。元純心女子大学客員教授。『あらしのよるに』(講談社)で講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化賞、JR賞受賞。同舞台脚本で斎田喬戯曲賞受賞。作品に『あかちゃんのあそびえほん』シリーズ、『オオカミのおうさま』(偕成社)など。絵本・童話作家にして工作の第一人者。その集大成として、2018年3月に岩崎書店より「きむらゆういち式 うごく!かみ工作ランド(全3)」を刊行。 

ミロコマチコ

大阪府生まれ。児童文学絵本作家。デビュー作『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)が日本絵本大賞受賞後、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍を続け、岩崎書店刊の絵本『けもののにおいがしてきたぞ』で第26回ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)金牌を受賞。

 

イベントの幕開けはライブペインティング。挨拶を済ませたミロコさん、まずは画材を念入りに確認します。

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緊張の一瞬。正面に貼られた模造紙を前に、もくもくと描き出しました。

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描き始めはここから。

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まずはクレヨンやパステルを使い、全体に線らしきものが描かれていきます。

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紙をはみだし、グリグリと。

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刷毛を手に、模様らしきものを足していきます。

f:id:iwasakishoten:20180720115752j:plainブルーのえのぐはチューブのまま!

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その勢いで、バケツの水に指を浸しながらてんてん…

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べったり塗られたブルーを拡げ

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何やら形らしきものが見えてきました。

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ふむふむ、わかってきたぞ。

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完成でしょうか? さすがミロコさん、けものの躍動感あふれる作品! 

とおもいきや。 …え?

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ええ〜〜〜〜っ!?

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なんと、ここまで描いた絵が、隠れてしまいました!でも…ものすごい迫力です。

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…と、その場でビニールを切り始めました。

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そのまま、ビニールの上に、えのぐを垂らして

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全体に拡げて…

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ぺたん!絵の上に大胆に貼りつけていきます。

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また何かのかたちになってきたようです。

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さらに、描き足していきます。これは…爪かな?

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耳・鼻・口、ときたら…

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やっぱり!いろんな色が重ねられていきます。

さて、気になる全体像は…? 後編に続きます。

 

ミロコマチコの魅力が大爆発。第26回ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)金牌受賞絵本

けもののにおいがしてきたぞ (えほんのぼうけん)

けもののにおいがしてきたぞ (えほんのぼうけん)

 

投稿者:michelle

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Gメンに学ぶ最高のエンタメ~磐田市竜洋昆虫自然観察公園の挑戦

こんにちは、gimroです。

 

関東では統計史上最速の梅雨明け。例年以上に長い夏が控えていると思うと…。

夏といえば、自然観察や自由研究を思い出す方も多いのではないでしょうか。

例年、この時期の博物館や科学館では、昆虫展や恐竜展が開催されています。

 

理科のお勉強はちょっと、という子どもたちも、企画展示は目を輝かせて参加したがるもの。わたしもそんな少年時代だったように回想します。

 

企画展示といっても、内容にさして違いはないのでは?とお考えの方がいらっしゃるかもしれません。

それは、NOです。例えば本日7月13日から国立科学博物館で開催されている「特別展 昆虫」のチラシを見ると、閲覧注意とことわりを入れた上で、“通称「Gの部屋」”なるゾーンが設けられています。お客さんを集める工夫なのでしょう。

 

こんな企画、今までにあったでしょうか?

これも、NO! といいたいところですが、何と国立科学博物館に先んじて、勇敢にも「G」が主役の企画を行っていた昆虫館がありました。

その狙いと反響やいかに…。

 

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誰もが嫌う「ゴキブリ」を逆手にとってのキャッチは秀逸!

 

「キモイキモイも、好きのうち。ゴキブリ展」を開催した静岡県磐田市の竜洋昆虫自然観察公園にて、企画立案をご担当の柳澤静磨さんにお話を伺いました。

 

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今年開館20周年を迎えた、竜洋昆虫自然観察公園

 

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竜洋昆虫自然観察公園のスタッフの方々。 後ろ左から、野島幹夫さん(外作業ご担当)、北野伸雄さん(昆虫ご担当)、山下洋子さん(館長)、柴田翔馬さん(高校生ボランティア)。 前列中央がゴキブリ展を企画した柳澤静磨さん

 

ゴキブリ飼育をきっかけに…その道へ

 

──こんにちは、このたびはよろしくお願いいたします。昆虫の展示でゴキブリにフォーカスした展示には驚きました。企画が実現されるまでのお話を聞かせてください。昆虫担当の方は何名いらっしゃいますか?

昆虫担当が2名おりまして、わたしと北野です。

 

──ええっ? 昆虫館ではありますが、昆虫担当は少ないのですね?

公園が結構大きいので、外の木を切る外作業の方が2名と、花の管理などの園芸担当の方が1名、そして館長の計6名です。

 

──そうしますと、年間の企画はおふたりでどんどん立てていくわけですね。今回の企画を立てる以前から、ゴキブリを専門で研究なさっていたのですか?

僕はこちらにきて2年になりますが、そのときはゴキブリがメチャメチャ嫌いでした。

 

──えぇっ!?

よく皆さんに意外といわれます(苦笑)。

ここ(竜洋昆虫自然観察公園・以下同)は夏場になると、たまにゴキブリが出るんですよ。本当に触りたくないし、見たくもないわけです。以前は北野さんを呼んで、捕まえてもらったりしていました。

ところが、あるときに北野さんが「いっそのことゴキブリを飼ってみてはどうか」と提案したんです。最初は「やめてくださいよ!」としぶしぶだったのですが、いざ展示してみて(注:今回の企画の前に少しゴキブリを展示し始めていた)僕が飼育担当としてエサをやるようになると、「あ、こいつカワイイな」と思うようになってきたのです。

 

──もしかしてそれはショック療法のようなものでしょうか?

そうかもしれません(笑)

でも、最初は身近な昆虫だから飼ってみるというきっかけだったものが、だんだんと慣れてきたのです。

ちょうどその頃、仕事として西表島・石垣島へ昆虫を採りに行けることになりました。その遠征で色々なゴキブリを見たことですごくハマってしまいまして、飼うゴキブリの種類を増やしていきました。

 

──そこのステップが速いですよね?

ゴキブリ嫌いだった自分が、あっさりとゴキブリを受け入れてしまっていたこともあり、また、お客さんも展示されたゴキブリをよく見てくれるので、絶対に興味はあるんじゃないかとも思いました。

さらに、基本的にゴキブリは暖かい地方のいきものなので、温度さえ保っておけば冬でも生きている状態で展示ができます。冬に展示ができる昆虫は少ないんですよ。

そこで、2月~4月の企画が空いている期間にゴキブリ展をやろうと思いました。最初は20種類くらい展示しようと思ったのですが、館長がもっと出した方がよいのでは?と(笑)。

 

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聞きなれない肩書き「ゴキブリスト」として企画を盛り上げる柳澤さん

 

──すごく理解のある環境ですよね。

結構自由にやらせてもらった感覚はあります。

 

──ゴキブリ展の企画を上司に通すまでの苦難、葛藤があるはずで、実はそれをお聴きしたかったのですが、全くありませんね(笑)。

最初はちょっとあったんですよ。「大丈夫かな?」くらいの心配は(笑)。

でも、「いや、いけるんじゃないですか」と勢いもありました。他の動物園でゴキブリ展をやったときに話題になったという情報もあったので、後押しになりましたね。

 

他の昆虫館・動物園に学び、SNSでアンテナを張った準備段階

 

──竜洋さんの先を行く施設があったことにも驚きます!

徳山動物園さん(山口県周南市)です。昆虫園では、足立区生物園さん(東京都足立区)ですね。足立区生物園さんには実際に伺って話を聞きました。

 

─実際の展示を体感する、いわば視察旅行ですね?

そうです。ゴキブリがいっぱい並んでいるバックヤードも見せてもらって、品定めもしました。

一応、企画書は出しましたけれども、最初の時点でもう「GKB」と書いていました。かなりふざけた感じだったと思うのですが、たぶんフワっと通ったのではないかと思います(笑)。ですので、あまり苦労はしていないかもしれません。

また、何も企画をやっていない期間だったので、リスクも少ないという背景もあったかもしれません。

 

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館内では「GKB38センター争奪総選挙」と銘打ち、展示されているゴキブリで最も印象に残ったものへの投票を呼びかけていた

 

─企画の穴埋めに困る期間、ということですね。他の昆虫園はどんなことをやっているのでしょうか?

絵のコンテストを開催したり、クラフト展示や採集の方法など色々と工夫しながらやっているのでしょうけれども、昆虫館としては全国的にお客さんが少ない時期なので、そこで話題性のある何かをやっていくことに意味があると思いました。

 

──ビジネスの視点ですか。客足の減る時期だからこそ、抵抗なくチャレンジしてみる価値があったのですね。

Twitterでうちは「次○○をやります」という告知をするのですが、その反応を見るとゴキブリは反応がよかったのです。ゴキブリとカマキリが突出していました。

であれば、Twitterはかなり拡散力があるツールなので、ポスター投票を出したり、GKB(センター争奪総選挙)を出したり、リツイートをかせいで知名度を上げて、という取組みをしてみようということになりました。

 

──リツイート数の多い、少ないで、次の企画についてのシビアな選択などをされるのですか?

すべてを決めているわけではありませんが、一つの指標にはしています。

 

──まさにマーケティングですね。

そうですね。カブトムシ・クワガタに比べて、ゴキブリ・カマキリのリツイート数は本当にすごかったです。ツイッターを利用する方々は、カブト・クワガタを見飽きているんじゃないでしょうか。珍しいものや、あまりやっていないものを展示する方向になりますね。

 

──カマキリが人気なのはなぜでしょうか?

造形じゃないですかね。一般の方もリツイートしてくださいます。ひらひらがついていいたり、枯葉に見えたりとバージョンも多いですから。

ツイッターが果たした役割は大きいですね。来館してくださった方で、展示を見たあとにゴキブリが気になって『くらべた・しらべた ひみつのゴキブリ図鑑』(岩崎書店:2016年刊)を買ったという方もいましたよ。

くらべた・しらべた ひみつのゴキブリ図鑑 (ちしきのぽけっと)

くらべた・しらべた ひみつのゴキブリ図鑑 (ちしきのぽけっと)

 

 

──とてもありがたいお話です。編集担当がこの本を企画した際、何回かNOを出されたと聞いています。でも、今回の企画展時のキャッチと似てますが、「嫌い嫌いも好きのうち」だろうと、同じことをその担当は申していました。

嫌いということは、一定以上の認知があるから成立するはずで、嫌いと無関心は全然ちがうという話をしていたようです。嫌いということは、もっと知りたいという需要があるはずだという情熱で、結果的に企画を通したという裏話があります。

素晴らしい。色々なお話ができそうです(笑)。

ここでも受付で「ゴキブリ展やってます」というと、みんな失笑混じりなのですが、それによってコミュニケーションができたりします。さらに「投票もやっているので、好きなゴキブリを選んでください」というと、「いやいやいやいや…」といいつつも、選ぶ立場になると意外にしっかりと考えた上で投票してくださいました。

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せっかくなので筆者も「選挙権」を行使!

 

客層の広がりと想定外の反応

 

──お客さんの“怖いものみたさ”のような反応の根底にあるのは、お化け屋敷のような感覚でしょうか?

そうかもしれません。

普段は家族連れの客層が多いのですが、カップルだったり、リュックを背負って遠出をしてきたような、雰囲気が完全に玄人のような方だったり、大勢の高校生が一挙に訪れたりとか、これまでとはちがう客層です。

 

──他の展示では見られないような客層の広がりですか?

かたつむり展をやったときもその兆しはあったのですが、またそれともちがいますね。かたつむり展はご高齢の方が多く、アジサイを見た後に来るケースが多かったように思います。

ゴキブリ展は、おじいちゃんが独りで来たりとかもありました。こんなにも年齢に関係なく集まる展示はなかなかないと思います。

 

──ずばりお聞きすると、ゴキブリ展の開催は大成功でしたか?

大成功だったと思います。年間の入館者数もかなり上がっていて、ゴキブリ展の開催期間は半月を待たずにその月の去年の来館者数に到達していました。

空いている期間に企画をしたというだけでなく、ゴキブリ展だったからこその魅力があったのだと思います。

 

──倍以上!ということですね。一日平均でどれくらいの来場者数だったのですか?

土日が多いのですが、春休みは100人とか…日曜に300人を超えたこともありました。2月・3月の2か月で去年に比べて3,289名増えました。なので、3,000人くらいはゴキブリ目当てで来たといってもよいのではないですかね(笑)。観光地のまわりや駅の近くという立地であれば気軽に来られると思うのですが、うちの施設は田んぼの真ん中に無造作にあるので、そうはいかない(笑)。

 

──来場者のアンケートにはどのような内容が書かれていましたか?

やはり肯定的な反応が多かったですね。「来てみておもしろかった」とか。これがアンケートです。

 

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アンケートより一部抜粋。満足度が高かったことがうかがえる!

 

──ジョークも交えた内容で、アットホームですね。

他の昆虫館に比べてリピーターがかなり多いので、ちょっとふざけた聞き方にしてみました。あとは、来年やるとしたらどんな展示がよいですか?とつなげて聞いてみました。どこから来たか記入する欄もあるのですが、今回は明らかに、都内や県外からのお客さんが多かったですね。遠くからでも見にきてくれる展示だったと思います。

 

──ほぼ壁にぶち当たることもなく企画を実行でき、来場者数も予想以上に伸びたわけですが、実際に開催することで起こった想定外のエピソードなどがあれば教えてください。

スーパーで「あ!ゴキブリの人だ!」と言われたことですかね(爆笑)。たまらず「そうだよっ!」と言ったんですよ。こういうのが地元のよさですね。普段は違う色のシャツを着ているのですが、すぐにバレましたから。しかも名指しで!

あとは、ゴキブリの駆除関係の方々もいらっしゃいました。駆逐したくなるということでウズウズしていました。敵を知らねばならんということです。

 

──そういった方々からすると、屋内で遭遇するクロゴキブリやヤマトゴキブリではなく、森の中にいるルリゴキブリのようなゴキブリをみたときには、駆除対象には見えなかったりするのでしょうか?

どうでしょうかね。でも、ゴキブリにもいろいろな種類がいることを知って印象が変わったと書いていた方もいました。

 

──ゴキブリを学ぶには、まさに格好の場所だと思います。

そうですね。展示場所で僕はゴキブリの話をするのですが、お母さん方から、ここでゴキブリの展示を見たあと、家でゴキブリが出たのでつぶしたら子どもが泣いた、という話を2件聞きました。

 

──これは…通常では考えられない反応ですね。

僕もこれには驚きました。理由を聞いたところ、1人は虫かごに入れて飼いたかったそうです。もう1人の子は、たたきつぶしたことがかわいそうだったというのです。

 

──駆除すれば喜ぶ場合が過半数、いや、大多数だと思うんです。

しかも母親がそのような行動をとれば、そういうものだと子どもも思うはずですが、拒絶反応をとったことに対して「申し訳ありません」と言いつつも、この展示の影響が出ているのかなと思いました(笑)。

僕はよくゴキブリについての昆虫教室やイベントも行うのですが、ゴキブリをかわいいという子がここにはたくさんいるんです。それがいいことかどうかは置いておいて、嫌いと言って相手を知らないままよりも、知って、触れ合ってから考えてほしいなと思っています。

その結果ダメだったらそれでいいんです。僕も苦手なものがたくさんありますから…。でも、そうやって、知って触れ合うことで多くの子どもたちがゴキブリを好きになってくれているということは、ゴキブリにはとてつもない魅力があるのだと思います。いつかは、ここに通っていた人たちの中からゴキブリの研究者が出ると思いますよ!

 

──他にも想定外のエピソードはありますか?

どうすれば侵入しませんか?といった真面目な相談をもちかけられることも増えましたね。そういう時は「あきらめてください、仲良くなるしかありません」とアドバイスすることにしています(笑)。

僕はゴキブリストと名乗っていることもあり、専門家のような誤解をされることがあります。誰に認められるわけでもなく勝手に名乗っているのですが、展示を見てゴキブリの名前を覚えた子どもには「君にゴキブリストの称号を授与する」などとコミュニケーションを取ってゴキブリストを増やしています(笑)。

そういったやり取りも話題を呼んでいたのかもしれませんね。グッズも、キャラクターなどではなくそのままのゴキブリの写真を使った下敷きなどを作りました。

 

GKB総選挙に加えて来年はゴキブリンピック?!

 

──来年は、今年の投票で選ばれた1位がセンターを飾るということですが、新たな試みなど考えているアイディアはありますか?

GKB総選挙もまたやりたいですが、38では収まらないでしょうから、本家の48を超えて個人的には100でやりたいと思っています。今年は冬期オリンピックが開催されていたから、ゴキブリンピックをやればよかったかもしれません。

 

──2020年の東京オリンピックに合わせるのも手ですよね。

2年後といわず、もう来年やりましょうかね。インドやアメリカなど各国からゴキブリがきていますから。徒競走とかクライミングとか、ハハハ。

 

 ──クドいようですが、ゴキブリはもう苦手ではないんですよね?

いわゆる普通のゴキブリ(クロゴキブリ)は触れないんですよ。さすがに叫ばなくなって、幼虫なら触れるようになったのですが、成虫はまだダメですね。ここまでゴキブリのことを知っても、ダメなものはダメなんです。まぁ、それも嫌いな人の立場から考えることができる、ゴキブリストとして貴重な部分だと自分の中で思っておくことにしています。

 

ここで、改めて当社の『くらべた・しらべた ひみつのゴキブリ図鑑』 をお読みいただきました。

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──知らない種類はいないのではないでしょうか。

でも、やはりゴキブリにひかれてしまうなぁ。知らないことはまだまだいっぱいあります。

 

──普通に暮らしていると、なかなか見ないものばかりです。

写真になるとわかりますが、擬態など写真でみて初めてわかるものもありますよね。これを見たら子どもの方が詳しくなりますね。

 

──他にもゴキブリのトリビアはありますか?

子どもを産むものと通常の卵を産むものがいますね。

 

──体の中で卵が孵化するということですか?

そうです。卵胎生といいます。

こういった営みをみると、昆虫のおもしろみがゴキブリに凝縮されているともいえるのではないかと思います。擬態や、カラフルなバリエーションだったり、害虫としての生態も含めて、ここまで揃っている昆虫もなかなかいないですから。

 

──ゴキブリの寿命は何年くらいですか?

国内のクロゴキブリであれば、成虫になってから25℃飼育で200日ほど生きるようです。また、幼虫の段階で一度冬ごしをします。1年以内に生き死にする昆虫が多いですが、ゴキブリは成長が非常に遅いんです。

繁殖力が強いとか言われていますが、卵の数もめちゃくちゃ多いというわけではないのですよ。イメージ的に1匹いたら30匹いると思え、とは言われますが、成長が遅いというのは意外と知られていない事実だと思います。

何を基準にするかで見え方が変わってきますね。

 

──これは、いい話をききました。

どの話題も、すべてゴキブリに絡めることができますから。繁殖も簡単で、漢方として食べることもできる。好き嫌いや周りへの影響、文化なども含めて教育的にも「とてもおもしろいいきもの」です。

 

──この度はお忙しいところ、ありがとうございました。わたしも人並み以上にゴキブリは苦手だったのですが、柳澤さんと同様に、ここにいるゴキブリについてはいやな昆虫という感覚がゼロ。ゴキブリがいることが自然という全く逆の感情が芽生えてしまいました。

 

<編集後記>

今回の取材中、わたしが投じた一票はどうなったのでしょうか?

結果はこちら。

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輝かしい「神7」余談ながら筆者の「推しG」は4位にランクイン!

 

こちらはTwitterやInstagramといったSNSで公表されていたのですが、来場者の興味や需要をすくいとっての企画の実行と、そのフィードバックがうまくかみ合っていることを痛感しました。

 

来年も開催することが決定した「ゴキブリ展」。今年はご存じなかったという方も、次回はぜひ、磐田市の竜洋昆虫自然公園を訪れてみてください!

 

なお、今週末7月14日(土)からは、夏の王道「世界のカブト・クワガタ展」が開催されます。ゴキブリストしずまさんのご活躍も楽しみですね。

 

最後に、ゴキブリつながりで宣伝です♪

9月21日(金)より全国ロードショー『パパはわるものチャンピオン』が公開!
原作は岩崎書店刊『パパのしごとはわるものです』、『パパはわるものチャンピオン』(いずれも作:板橋雅弘/絵:吉田尚令)。
本作中に、ゴキブリマスクが登場いたします! 乞うご期待★

 

取材協力:磐田市竜洋昆虫自然観察公園

http://www.ryu-yo.co.jp/konchu/

投稿者:gimro

聞かせ屋。けいたろうに【聞かされてみた!】<後編>よみきかせ実践ワンポイントレッスン

こんにちは、gimroです。

シリーズでお届けしている、「聞かせ屋。けいたろう」さんに【聞かされてみた!】。

前回までの<前編>・<中編>では、けいたろうさんのユニークな経歴と絵本との向き合い方についてのインタビューを掲載いたしました。

 

www.iwasakishoten.site

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最終回となる今回は、けいたろうさん直伝「よみきかせのワンポイントレッスン」です。めくっていただいているのは、『おおやまさん』。

 

おおやまさん (えほんのぼうけん57)

おおやまさん (えほんのぼうけん57)

 

 

──本のめくり方など、よみきかせの極意をお聞かせいただきたいのですが。やはり、一番を引くのが綺麗なめくり方です。どんなところに気をつけていますか?

絵本はできるだけ手で絵を隠さない持ち方、めくり方をします。

こういう感じで!

上をめくると絵を隠しがちになる、横を持っても隠してしまうので、僕は下を持つことにしています。

 

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これは【悪い例】:手で画を隠してしまうめくり方

 

 

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本の下を持つことがけいたろうさんのスタンダードだ

 

めくるときはこういう感じで…。

 

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ファスナーのように動く指は“美麗”の一言に尽きる

 

あと、表紙・見返し・裏表紙は見せた方がいいです。これは大事に見せましょう。絵本の魅力を余すことなく伝えることができます。

 

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見返しは、無地でも余韻や間を生む効果がある

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こちらは裏表紙いわゆる表4、忘れがちだが本はここまで味わいたい

 

──それにしても手が器用ですね。楽器をなさっていることもあるのでしょうか。

そうかもしれません。どうですかね。すべてのことに通ずるのは絵本を立てること、絵を大事に見せることですね。

 

──なるべく下の方をめくるのですね。

できるだけ絵本が動かないように、僕はいつも下の方をめくっています。映画館のスクリーンも動かないですから。

できるだけ持ち手は動かないようにしつつ、すっとめくる。絵本の絵をじっくり味わえるようにということですね。

 

──めくってからの「間」には気をつけてらっしゃいますね?

よみきかせをしている時に、速いといわれることはあっても、遅いといわれることはなかったんです。

子どもたちは、自分が思っている以上に絵本の絵を楽しめるのではないかと気づきました。人は人の目の前に立つと緊張して早口になるのと同じように、よみきかせでも同じことがいえるのではないかと。ゆっくりめくることを心がけるとよいと思います。

 

──読み方、めくり方以外で気をつけていらっしゃることは?

繰り返しになりますが、まず自分が楽しめる本を選ぶことですね。自分が楽しいということが子どもに伝わっていくと思うので。

 

──あとは音もありますね。

赤ちゃん絵本は特にそうなのですが、「ばびぶべぽ」「ぱぴぷぺぽ」「まみむめも」という両唇音というのがあって、これは赤ちゃんが楽しむ音なんです。

赤ちゃんにとって繰り返しいいたくなる美味しい音。パパ、ママ、ブブ、とか、英語だとpeekaboo(日本語訳で“いないいないばあ”)もそうですね。

『ももも』(岩崎書店:2015年刊)、『ぱかっ』(ポプラ社:2017年刊)とか。往年の名作でいうと『もこもこもこ』(文研出版:1977年刊)とか『じゃあじゃあびりびり』(偕成社:1983年刊)とか、いずれも音が楽しい絵本が多いですね。赤ちゃんにとって心地よい音は特にお薦めです。

 

──『ももも』を選んだ理由はそこにあったのですね。

おとなも赤ちゃんも楽しめる本ということです。

 

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よみきかせのスタメンを勝ち取った『ももも』

 

 

すこやかあかちゃんえほん (1) ももも

すこやかあかちゃんえほん (1) ももも

 

 

糸へんに会う本、で絵本

 

──坂口さん、「けいたろう」が他のよみきかせの方と違う点はどこだと思いますか?

僕は絵本の人と人がつながるところ、読み手と聞き手がいることが素敵なことだと思っています。

絵本って【糸へんに会う本】って書くじゃないですか、よくできているなと思います。出会いを糸で結んでくれているのが本のような気がすると思うんですよ。今まで路上でも、初めて会った人とつながってこられたし、今日の子どもたちとも笑顔でつながれるのは絵本があってのことなんですね。

人と人のつながりを大事にしていきたい。絵本の一番素敵なところはそこだと思っています。

ということで、ひょっとすると目的が違うかもしれません。

絵本自体ももちろん好きですが、絵本で人とつながることが一番好きで活動しています。

 

──糸へんに会う」ですか…。習ってから何度も目にしている漢字のはずなのに、初めて聞きました。

これは、いつも絵本の講座の最後にもいっているのですが、まさにそうだと思います。

親と子がつながる、おとなとこどもがつながる、絵本の役割はそこだと思っています。おとなとおとなでもつながりますし、人と人とがつながるツールと僕はとらえています。

 

──これからもよみきかせは続けていくと思いますが、目標はありますか?

目標は今と同じ距離感でやりたいと思っています。今がベストだと思っています。

もっと大きい会場でやりたいとか、もっと有名になりたいとか、そういうことは思っていなくて、むしろ小さい会場でやった方がいい。それは絵本だから。

生の絵がとどく範囲、僕の生の声のとどく範囲でやりたいと思います。本来、絵本は親子や少人数でみるものなので、無理をさせているという意識はあるのですが、何とかとどく範囲でやりたいです。

 

──本日は、本当に長い時間、ありがとうございました。

 

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ワンポイントレッスンでお選びいただいた『おおやまさん』(岩崎書店:2013年刊)を持つgimroと、自らが文をご担当の『どうぶつたいじゅうそくてい』(アリス館:2014年刊)を持つけいたろうさん

 

おおやまさん (えほんのぼうけん57)

おおやまさん (えほんのぼうけん57)

 

 

どうぶつたいじゅうそくてい

どうぶつたいじゅうそくてい

 

 

インタビューを終えた直後、こんなことも言っていた。

「365日のうち、160~170日はよみきかせをしている。聞かせ屋は、年を重ねた方が味が出てくると思うので、生涯現役でやっていきたい」

一瞬、「聞かせ屋。けいたろう」ではない、坂口慶の顔が見えるかな…。

そう思った矢先に「ではまたどこかで! お疲れさまでした」。

挨拶を終えるとあっという間に、けいたろうさんの背中は、灯りの明るさが目立つ神保町の街角へと溶け込むように消えていった。

 

屈託のない笑顔。聞かせ屋。という職人のイメージが漂う名前とは裏腹に、優しいお兄さんのような雰囲気がまた素敵な方、それがけいたろうさんだ。

 

今日もウクレレや笛の音から始まるよみきかせが、どこかで行われていることだろう。

 

kikaseya.jp

 

Special thanks:Book House Cafe
www.bookhousecafe.jp

 

投稿者:gimro

聞かせ屋。けいたろうに【聞かされてみた!】 <中編>よみきかせで欠かせない、絵本との向き合い方

こんにちは、gimroです。

当世きっての絵本“聞かせ屋”のけいたろうさん。

<前編>では、けいたろう誕生秘話までのインタビューを掲載いたしました。

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今回は<中編>といたしまして、けいたろうさんに絵本との向き合い方について語っていただいた内容をお送りします。

 

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Book House Cafeでよみきかせを行う、けいたろうさん

 

自分が立つのではなく、絵本が立つように

 

──今日のよみきかせのイベントの前後を拝見して思ったのですが、けいたろうさんの所作には、随所にきちっとしたところがあります。親しみやすい面もお持ちの一方で、きちんとした線引きもなさっている二面性が、新たに感じた魅力です。

スタイルとしては、衣装は襟付きのものを着ますし、挨拶もちゃんとしようというこだわりがあるかもしれません。そして、その衣装はだいぶ変わりました。

最初はマフラーをトレードマークにしていたんです。他にも、Tシャツを着てやんちゃな感じにしようとか、民族衣装のようにすごく長いストールを巻いたりとか、すごく間違ったことをしていました(笑)。

でも結局、襟付きのシャツとハンチング帽をかぶって綺麗なズボンをはいていこうというスタイルが今の自分にはあります。

そのスタイルを皆さんちゃんとみてくださって、絵本をよむ活動を応援してくださっています。

路上でやっていた当初は、行儀が悪かったんですよ。大股を広げて声色もすごく抑揚をつけたりして、すごくパフォーマンス色が強かったんです。

 

──世間一般のよみきかせのイメージとはかけ離れた、パフォーマンス重視の見世物のような?

そうです。派手なパフォーマンスをしないと、歩いている人を一瞬で止められないんですよね。

「何こいつ!」と思わせるために思い切り声色を変えたり、芝居がかったことをしたり、絵本をまわしたりもしましたね。

まずは目立って、自分が悪役になったとしても、絵本に注目が集まるならいいかなという考えでした。最初はチラシに【行儀が悪いかもしれませんが、絵本に注目がいくようにしますので見守ってください】というような一文を入れていたんです。

絵本をつくってくれる人がいるから自分が路上で活動することができている、というのは当初から大事にしていることだったので、そこは外さないようにしたいと常に思っています。最初の数年はその文章を入れていました。

よみきかせを重ねて、だんだんと読めば読むほどシンプルに、絵本を立てるという風になってきました。

自分が立つのではなく、絵本が立つ…まあ前座として自分が立つこともありますが、読んでいる最中は絵本が引き立つようにと思っているので、みてもらえばわかるのかなと思います。

 

──パフォーマンスから変わったきっかけはあったのですか?

よみきかせを見ている方から「めくり方とかが綺麗。手の動きが本を邪魔していないね」と、派手じゃない部分を認めてもらえるようになったのです。

持ち方・めくり方が評価されたこと=絵本を大事にしていると感じていただけたことで、研修会や講演会に呼ばれるようになって、違いがわかる人にはちゃんと伝わっていることがわかりました。それで「このやり方でいいんだな」と思うことができました。

声色については、きかせている子どもが絵本ではなく僕を見ていたことがあって「これは違う」と気づきました。

 

──では、今は路上でやる場合、パフォーマンスはなさらない?

そうですね、でもパフォーマンス的なことが必要なときはあります。それは現場によって。

例えば、大きなショッピングモールのように広い空間では、派手に盛り上げるような問いかけをして、お客様の声を交えつつやることもあります。

結局、絵本をいかすためにはその場にあわせた手法をとります。広い会場でやっているところだけをみられると“よみきかせではなくパフォーマンスだよね”と思われるかもしれませんが、全部を通してみてもらえば、僕のやりたいこと・大事にしたいことはわかってもらえると思います。

 

外見の話からはじまったが、心の中にぶれない矜持をお持ちのけいたろうさん。

せっかくだから、道具のことも聞いてみたいと思った。

 

自分で「けいたろうの分析」とかします(笑)

 

──衣装に関連してですが、トレードマークともなっているトランクは、流しのようなイメージですか?

普通のバッグでは絵本が多くて入りきらないので、最初はアルミのトランクを使っていました。でもそれがすごく重かったので、壊れてしまって…。

新しいトランクを探したら革のトランクと出会って、冷たい感じのアルミではなく、暖かみのある革から絵本が出てくる感じがいいなと思いました。でも、これはもう20代目くらいですよ。よく壊しますから…年に2つくらい壊します。重すぎて革が破れちゃうんです。

 

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──今日のは比較的新しく見えますね?

でも、これは一度補修しています。革だからパン!と破れてしまいます。

 

──全体的にイギリスっぽい風貌を意識していらっしゃる?

結果的にモデルがいないので、イメージは全部でつくっていくしかないですね。

今やトランクは、絵本を入れるイメージしかないのです。旅行前夜、着替えを支度している時に「トランクって洋服いれるものだっけ?」と不思議な感覚を持ってしまいました(笑)。

 

──着替えは現地で行うのですか?

そういう時も多いです。帽子とメガネは特に、切り替えとして。

スーツを着てネクタイを締めるのが戦闘態勢という人もいると思うのですが、特にステージに立つ人は顕著ではないでしょうか?

 

人前に立つ30分でも、すごい緊張感とメリハリ、瞬発力が求められると思うんですよ。スイッチのオンとオフは帽子やメガネでしていますね。

 

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トランク以上に目を引いたシューズ。子どものヒーロー、ウルトラマンを髣髴とさせる。

 

──本名の坂口慶と「聞かせ屋。けいたろう」、この2つの人格を使い分けて、切り替え…語弊があるかもしれませんが、変身をしているような印象を持ちます。

最近は結構、けいたろうを客観的にみることができるようになったんじゃないかと思います。「けいたろうはこのスタイルだろうな」というような、けいたろうの分析もしますからね。

 

──それは、今のスタイルがある程度固まってきたからですね?

最初はがむしゃらでしたね。駆け出しの頃は、デパートなどの商業施設で盛り上げることを第一に考えていましたし、パフォーマンスとしての依頼が多かったので、お客さんが盛り上がらないと次の依頼が来ないんじゃないかという思いがありましたね。

でも今はそういうことはなく、メリハリがあればいいということがわかってきたので、反応が起こりやすい本を読む一方で、しっとりとした本も読むことにしています。全ての絵本が生きればベストかと思います。

でも難しいんです、これが。対象年齢も0歳から小学1、2年生までいるので、しっとりした本も入れていいのかというのを瞬時に考えるわけです。

 

──色々な本をもっていき、その場その場に適したものを出すということですね。

始まる前にどの絵本メインでいくのか、最終的にその絵本が際立つにはその前にどんな絵本を読めばいいのか、その場でお客さんや子どもたちとつくっていく感じです。空気もその場で変わっていきますしね。けいたろう空気読め、といいますか(笑)

 

 

「ベンチ入り」の本、「スタメン」の本…

 

──児童書の世界ではロングセラーの存在も大きいですが、よりよい本を探すなどの研究もしているのでしょうか。本の入れ替えはあるのでしょうか。

それはありますよ。僕のトランクに入っている本はいわばベンチ入り。さらに試合に出られるかどうか、スタメンはどれか、1番打者、2番打者、3番打者…など。

よみきかせに使う本は、5冊から多くても6冊なので、出番があるかどうかというのは難しいところですね。まずトランクに入るかどうか。

ほぼトランクに入る本=ベンチ入りの本は決まるんですよ。対象年齢が広い本、歌の本2冊、導入2冊、おとなも笑える本2冊、あとはコンスタントにどこでも読める絵本が2冊、赤ちゃん絵本が2冊というように。それぞれの役割があるので、ポジション争いは熾烈ですね。だから新しい本が出ても入れないということがあります。

 

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これが取材当日の“ベンチ入り”絵本!!

※左から

『おおやまさん』(川之上英子/さく・え、川之上健/さく・え:岩崎書店)

『しあわせならてをたたこう』(デビッド・A・カーター/著:大日本絵画)

『やさいさん』(tupera tupera/著:学研)

『うし』(内田麟太郎/詩、高畠純/絵:アリス館)

『ももも』(川之上英子/さく・え、川之上健/さく・え:岩崎書店)

『どうぶつたいじゅうそくてい』(聞かせ屋。けいたろう/文、高畠純/絵:アリス館)

『カレーライスのうた』(新井洋行/絵:フレーベル館)

 

──なるほど! 野球に例えると「もう外野手は層が厚いからレギュラーは取れない」というようなこともありますか?

そうですね。逆に、これを外すわけにはいかないというものもあります。そして、絵本の実力に場の空気を加味して、読む本を選んでいきます。

 

──あとになって評価が変わることはあるのでしょうか?

今は一周回って「やっぱりあの本は必要だな」と思い返したりすることがありますね。

よみきかせでの30分は長く、25分でも長い。すごく充実したという感覚をもっていただくには23、24分がベストだと思うのです。そういった充実感をつくるには、構成が大事ですよね。

改めて見たら、評価が変わったという本はあります。『あらまっ!』(小学館:2004年刊)という絵本と『ちゃんとたべなさい』(小峰書店:2002年刊)という絵本があるのですが、お母さんたちも笑える絵本も入れなきゃと考えると、どちらの絵本もスタメンで戻ってきました。

でも、どんどん新しい本にもチャレンジしないと自分自身が新鮮じゃないし、成長しないと思っていて、これまでスタメンを張っていた本以外にも、新刊にチャレンジすることの大切さを感じています。

 

「おもしろい」の答えは子どもがもっている

  

──成長という言葉が出てきましたが、けいたろうさんにとって「成長」とは何でしょうか?

人生は成長だと思っていて、先輩に教わるわけでもなく現場で学ぶことが多い仕事なので、失敗やチャレンジすることが大事だと思います。慣れたらつまらないです。

お客さんが反応してくれたら楽しいし、これならバッチリだというラインナップもあるのですが、いつもそれを入れていると全然新しいことに触れられず、同じことにしか触れられません。

「この絵本は向かないと思っていたけれど、ここに反応するんだ!?」ということは、読んでみないとわからない。答えは子どもが持っていて、自分の思いと違う反応があるんですよ。

『ももも』(岩崎書店:2015年刊)もそうです。おもしろいとは思っていたけれど、こんなに子どもがおもしろがってくれるとは。今日もお母さんがおもしろかったといっていました。

赤ちゃん絵本で、おとながおもしろがってくれる本って少ないんですよ、どうしてもシンプルですから。短すぎておとなには物足りないというのが普通ですが、『ももも』にはおとなも楽しめるユーモアがたっぷりとつまっています。赤ちゃん絵本でおとなが笑えるという点で稀少ですよ。おとなが笑えるということは、対象年齢が超広いわけですから、作家さんとお話をしたいくらいに推しの絵本です。

 

──読み手が楽しめないと、子どもにも伝わらないですよね。

そうなんですよ。保育の実習をやっていたときもよく感じました。

自分が楽しめていない活動は、子どもにもばれますから。保育室にギターを持ち込んだのも実習がきっかけでした。まずは自分が楽しいところからでいいんだな、と気づかされました。

保育士だと工作、歌、何でもやらなきゃいけないというところがありますが、自分が好きなことから始めることの大切さを学びました。自分が楽しめる絵本でないと楽しさが伝わらないと思うので、自分がおもしろいと思える絵本を選んでいます。読んでいるときは自分もおもしろいとおもっているから、あれだけ笑ってもらったり子ども反応に共感できたりすると思います。

 

さきほど、絵本を立てるというキーワードが出たことを思い出した。

「自分が楽しんでいる=自分がその本のよさをわかっている」からこそ、できるのだ。

  

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笛を吹き、ウクレレをかき鳴らすけいたろうさん。路上ライブも観たくなる。

 

──聞かせ屋を軌道にのせるための工夫はされたのですか?

名前ですよね。すごくこだわりました。

最初は「チャーリーとけいたろうの聞かせ屋」と名乗り、チャーリーという腹話術人形を連れていました。アイキャッチになるからいいかなというように。

チャーリーによみきかせをするという形ですが、振り返ると迷走していました(笑)。2,3年はかばんのなかに入れてアイキャッチにしていて、相棒のような体でやっていました。

そして、「聞かせ屋。けいたろう」も漢字にするのかひらがなにするのか迷いました。

本名が慶なので、慶に桃太郎のような「太郎」をつけて、いつしか「きかせや慶太郎」となったのですが、「きかせや」もひらがなだと意味がわからないなと思い返しました。何をきかせるのか、効能なのか。けいたろうも全部漢字だったんです。これだと重いので、真ん中に「。」をつけて濁したんですよ、「モーニング娘。」が好きだったので(笑)

 

この時点で「きかせや。慶太郎」だ。うーむ、確かに文字から伝わる印象はちがう。

 

そしてやっていく中で、慶太郎だと子どもが読めない。聞かせ屋も「聞かせ屋」の「屋」がひらがなだと「知らざあ言って聞かせやしょう」が検索で出ちゃって、イマイチ自分のところにたどり着かなかったんですよ。それで「や」を屋号の「屋」にしました。

これからは検索の時代だと思っていたので、意識しました。名前を決めたのはそんな理由からです。「聞かせ屋。けいたろう」自体を名前にしちゃえと思って、二転三転して今の形になりました。余韻で「。」はそのまま残っています(笑)

 

──活動していくうちにマスコミに取り上げていただいたのが大きかったのでは?

2008年、駆け出し2年目くらいで初めてテレビに出たんですよ。

1つ出ると他のところでもお声が掛かりまして、テレビだけでなく新聞各紙にも取り上げていただきました。“夜の路上でおとなに”というのがおもしろかったようです。こういう積み重ねが背中を押してくれて、仕事も少しずつもらえるようになってきたんです。

 

──聞かせ屋。って何だ?というところから。引っかかりがあったということですね。

名前のインパクトがよかったと思っています。

 

アメリカで得た、よみきかせでかかせない「距離感」

 

──非常勤の保育士から聞かせ屋に専念するようになったきっかけ、分岐点はあったのでしょうか?

非常勤を2年、そのうち1年目は幼児クラス、2年目は1歳児クラス(乳児)を受け持ちました。

聞かせ屋を2年やったときに仕事が入り始めるようになって、地方から呼ばれたりもしました。最初はにぎやかしのような立場だったので、土日が多かったのですが、平日の依頼も入るようになって、保育士の仕事と重なってしまうため、断らねばならなくなってきたのです。

非常勤の保育士は、平日の保育士の穴埋め的なこともありましたが、保育も大事だし自分の聞かせ屋も大事ということで、どちらも一番にできないという現実に直面してしまいました。ならば、保育を辞めないといけないかなと思うようになりました。

そんなとき、1年目に一緒に担任を組んでいた同僚がよみきかせを観にきてくれて、「保育園では見たことのない笑顔をしている。これはあなたにしかできない」と言われました。さらに「全国を回って、色々と得たものをわたしたちに伝えてよ。保育園にはわたしたちがいるから大丈夫」とも言われました。僕もそう考え始めていたので、納得した節があり、保育士を2年で辞める決心がつきました。

同じ頃、海外から僕の講演をたまたま観にきてくれた人がいて、その方はカリフォルニア州サンフランシスコの日本語学校の校長先生だったんですね。そして「今を生きているあなたの日本語と、日本で流行っている絵本を持ってきて欲しい」と言われたんです。ちょうど僕もきっかけを探していたので、保育士の2年間を終えた直後、2か月アメリカにわたってよみきかせに行ってきました。

 

 ──その経験が生かされたわけですね?

いやー、これがなかったらと思うと…全然違います(笑)。

今は気軽に行けませんから。当事は若さと勢いだったんですけれど、そのとき自分なりの課題がありました。また、絵本だから文章がなくても大丈夫だろうと考えていて、あえて言葉がわからない国に行き、色々な経験を積もうとも考えていました。

アメリカの路上や、紀伊國屋書店でやった経験、英語だけ・日本語だけでやった経験、色々とあって非常に疲れました(笑)。2か月間、言葉が伝わらないストレスがたくさんあったのですが、その分、得るものもたくさんありました。

帰国して翌年、翌々年もまた行き、延べ4か月、僕のチャレンジは続きました。心の距離の大切さ、英語の大切さもわかったので勉強しました。英語だけで通してよみきかせをやると「がんばったな」と評価してもらえて、次は日本語だけでもやらせてもらえることもありました。このことから、歩み寄りの大切さも知りました。

絵本のよみきかせは距離感、読む人と聞かせる人の関係が大事だなと思います。上から読んであげるわけではないですから。

よく、よみきかせということばを嫌がる人もいるんですよね。「きかせてやる」みたいで嫌ということで「よみかたり」と呼ぶ方もいます。僕は、関係性はことばというよりは実際のよみきかせの中で示せばよいと思っているので、こだわりはありません。よみきかせというフレーズがイメージしやすいので「聞かせ屋」にしているんですが、おっしゃるとおりだとは思います。

上から聞かせるのではなく、こどもと肩を組むような感じで「一緒に読もうよ」というのが、僕の立ち位置です。

 

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けいたろうさんは、苦労話でも笑顔が絶えない

 

──海外でよみきかせをする日本人なんて、聞いたことがないですね。

渡米中に、現地の図書館でよみきかせを聞いたんですよ。でも僕は、子どもたちと一緒のタイミングで笑えていなかった。疎外感があって入り込めなかったんですね。それはことばなのかな、と感じました。では自分はどうするか。

自分はアメリカにきたのだから、ネイティブの人々の前では恥ずかしくて勇気がいることだけど、意固地にならずに英語を話してみました。すると、彼らはその一歩を受け入れ評価してくれるということ、近づこうとする気持ちが大事だなということがわかりました。

 

──距離感は絵本だけでなく人との間でも大事ですよね?

自分がまずは相手を好きにならないと、好きになってもらえませんよね。自分から挨拶をしないとしてもらえませんし。自分は行動派なのでまずはやってみようと思いました。待っているだけではしかたがないですね。優しくするから優しくされるのではないでしょうか。

 

──子どもたちだけでなく老人ホームなどもよみきかせはしますか?

たまにやります。老人ホームでも、人と人とのつながりという点は共通しているので、喜んでもらえます。でも、すごく声量がいります(笑)耳が遠い方も多いから。

それから、絵本は子どものものと考えている方が多いので、おとなでも楽しめることをこちらから伝えつつ「よろしくおねがいします」と「ありがとうございます」の挨拶は大事にしていますね。

  

知られざるけいたろうさんの経歴と、それをベースにした「聞かせ屋。」としてのスタンス。今後けいたろうさんのよみきかせに参加する際には、本記事のことを少し思い出していただくと、より奥行きを感じられるかもしれない…。

 

最終回の<後編>では、けいたろうさんによる【よみきかせ実践ワンポイントレッスン】を掲載いたします。

プロの極意はどこにあるのか…どうぞお楽しみに♪

 

けいたろうさんの公演予定はこちらでチェック!

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投稿者:gimro

部活動で共に育つ!チーム習志野がマーチングで史上初の快挙を成し遂げた理由<後編>

全日本マーチングコンテストで小・中・高4校が全国大会で金賞受賞という、史上初の快挙を成し遂げた「チーム習志野」。前編に続き、各校の顧問の先生方がその秘訣を語ります。

前編はこちら

www.iwasakishoten.site

 

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生徒と教員、「共に育つ」のが「きょういく」   

石津谷先生(以下、石津谷) 私が感銘を受けた言葉で、「きょういく」は「教えて育つ」ではなく、「共に育つ」と書くとおっしゃった方がいます。これは教育の現場において、子どもと教師の関係を表す言葉だと。コンクールに出場することで、生徒が育ってほしいのは当然ですが、教師も育たなくてはなりません。そういう意味では、次の大会に進めなかったからと言って生徒のせいにするのは、共育ならぬ「狂育」ですよ。

──習高吹奏楽部の基本方針は「共育」ですか?

石津谷 「笑いと発想のある部活」ですね。私も怒るときは怒りますが、部活や合奏では、常に楽しい空気がなければ子どもは伸びないし、音楽もよくなりません。叱り飛ばした後に本番を迎えて、良い演奏ができるでしょうか? 

音楽は心の表現なので、やはり雰囲気作りは大切なんです。だから怒るなとは言わないけれど、それを引きずってはいけないんです。生徒たちも、怒られる理由はわかっても、それが四六時中となれば、気分が悪くなりますよね。

──確かに怒られ続けたら、演奏まで暗くなってしまいそうですね。「発想」にはどんな意味がありますか? 

石津谷 名門校になればなるほど、「先輩たちがやってきたことを真似れば自分たちも全国に行ける、金賞を取れる」と思い込みがちなのですが、それは大きな勘違いなんです。確かに、先輩は素晴らしかったかもしれない。でも、自分たちにあった練習や発言、部の組織づくりをしなければ、自分たちの演奏はできないでしょう? それに、顧問に言われたことを受け身でやっているだけでは、生徒同士の人間関係も向上しません。

私は、合奏中でも手を挙げて、思ったことをみんなの前で発言することも、発想だと思っています。後平先生がおっしゃった通り、顧問の我々は、放課後にも会議や事務仕事が必ずあるので、生徒たちが主体的に考えて行動しなければ、部活が成り立たなくなります。彼らが常に発想を心がけて主体的に動けるようになれば、顧問も楽になって、日々の練習に出づっぱりになったり、コンクールでずっと前に出続けてあれこれ言う必要もなくなるでしょう。そんな理由から、よい部活を作る根底には「笑いと発想」があると思っています。

後平先生(以下、後平) 私は生徒たちに、「どうやったら明日の自分はもっと良くなりますか」と問いかけることを常に心がけています。今日も、楽譜を準備してこなかった生徒がいたので、練習を止めて少し話をしました。準備したつもりができていないことは、私を含め誰にでもよくあることですが、そんな時に考えてほしいのが、「あと一歩、確認すればよかったんじゃないか」ということ。部活の中には、そんな「よりよい明日にするにはどうしたらいいか」を考えるヒントがたくさんあると思います。

合奏やマーチング指導では、私より立派に指導される先生方は大勢いらっしゃいますが、吹奏楽部の顧問として生徒たちと携わっている以上、そういうことに気づいて卒業してもらいたい。それが自分にとっての使命だと思っています。

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自分の人間性の悪い面が、生徒に生き写しになる可能性 

──先日行われた二中の定期演奏会は、先生と生徒の信頼関係が伝わってくる楽しい演奏会でした。

後平 そう言って頂けると嬉しいです。でも難しいのが、部活動の指導は下手をすると、自分の人間性の悪い面が、そのまま生徒に生き写しになってしまう可能性があることです。その点は気をつけなければいけないと思っています。

──部活の指導は教科書に沿ってというわけではないですし、難しい点も多いでしょうね。でも、そんな中で、教員も生徒も、手探りで作り上げていけるという魅力もあるということですね。

後平 はい。生徒たちも、目標と目的を使い分けられるようになってきました。目標は「大会で優秀な成績を収めること」ですが、彼らの目的は別の次元にあるようです。

ある生徒から「私は全国大会で金賞を取りたくて二中の吹奏楽部に入りましたが、実際に金賞を取ってみて、そのことが自分のためになるわけじゃないと気付きました」とはっきり言われたんです。「全国大会までの過程で、仲間同士で励ましあいながら多くの先生や先輩から指導を受けたおかげで、様々な人の考え方を知ることができた。そして、ひとつのことに向かって突き詰める経験ができたおかげで、自分が今までできなかったことや、これから自分がどんな人間になりたいかが見えてきた気がする。金賞を取れたことそのものではなく、その過程で得たものがあったから、自分は金賞を取ったことが嬉しかった」と。 

石津谷 すごいな。素晴らしい生徒だね~。その子にはぜひ、習高に入ってほしいな~!(一同笑)

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後平 しかもその発言を聞いて、ほかの生徒たちも「そうだよね」ってうなずくんですよ。私も常々「大会で勝つことを目的とするな、生きる目標とするな」と話してきましたが、彼らなりにヒントをつかんで消化できているんだなと思い、嬉しかったですね。

部活動を通じて、目標と目的を使い分けられる生徒をもっと増やしたいですし、部活動ってそういうものじゃないかなと、改めて思いました。昨今、部活動の意義が議論されていますが、そういう生徒たちが増えることで、「部活動って捨てたもんじゃないでしょう? 」と世に訴えたいですね。

竹澤先生(以下、竹澤) うちの部活のモットーは「気が付き・気が利き・気が回り」です。音楽は、聴いてくれる人がいないと成り立たないので、聴いてくれる人に喜んでもらうために最終的に大事なのは、様々なことに気が付き、気が利き、気が回せることだと思っています。

部活動では挨拶や清掃を基本としていますが、掃除したからといって楽器は上手くならないし、挨拶できるか否かが演奏に直結するわけじゃありません。でも、大人数で複雑な演奏をしたり、仲間と美しいハーモニーを奏でられるのは、実は奇跡的なことで、軽んじたら、様々なことが崩れてしまう可能性もあると思うんです。

例えば、各教室を管理している先生が、パート練習に使うことを許してくれなかったら、練習ができなくなりますよね。だから僕は、技術面だけじゃなく、挨拶や清掃などをきっかけに、日々の周りのことに気を配って、相手の立場に立って行動することの大切さに気付いてほしい。練習で困っている友達を気にかけることで、周りも人の気持ちを考えたり、改善する習慣が身につくと思うんです。 

──世間で言われている吹奏楽部のブラックぶりのひとつが、掃除や挨拶にこだわることが体育会系の規律で今の時代に合っていないという指摘がありますが、今のお話を聞いて、実際の部活動の現場ではなく、外から見た印象のように感じます。

竹澤 吹奏楽部は人数が多いので、顧問が統率力を発揮すれば管理できるかもしれません。でもそれだけでは、組織をまとめることはできないんです。以前は部活を辞めてしまう生徒も多く、全国大会目前に退部されたときは、「大会に出られるのにどうしてだろう?」と真剣に考えました。そして、生徒の気持ちを置きざりにして、自分におごっている部分があったことに気付いたんです。

それから多くの先生方との出会いや、指導方針や考え方の変化を経て、今年の僕の自慢は、全国大会に出たことよりも、部員が85人中1人も辞めなかったということなんです。実は、年間を通して退部者が1人も出ずに部活を終えられたことは、僕の教員人生10年間で初めてのことでした。生徒間でも、何かあれば同級生や先輩に相談するシステムができてきたので、これからもこのモットーを大事にしていこうと思います。

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今井 私も、音楽は聴いてくれる人がいてこそできるものだから、中身のない音楽はさせたくないという思いがあります。これだけ中学、高校との連携など恵まれた環境が整っていても、教わった通りにやるだけでは上達せず、からっぽの音楽になってしまいます。教わったことをどう活かしていくかで、自分たちの音楽に変わると思うんです。こういう演奏がしたい、こういう音楽を届けたい、そんな意思を持ってほしいと思っています。石津谷先生たちが小学校に指導にいらしたときにも、「お前たちはどんな音楽をしたいんだ。それが全然分からない」と子どもたちに話してくださいました。

小学生には、あまり難しいことを言っても伝わらないこともありますが、自己満足でなんとなく演奏するのではなく、聴いている人のことを考え、大久保小の自分たちにしかできないマーチングや音楽をつくりあげてほしいという思いで、「自分たちで自分たちの音楽を奏でて、人に感動を与えられるようにしようね」と指導しました。

 

コンクールは目標のひとつで、目的ではない 

──地域行事でも吹奏楽部が演奏参加している印象があります。市民の方が子どもたちの演奏を聴ける機会があるというのもいいですよね。 

石津谷 地域のおまつりなどの行事に加え、幼稚園や障がい者施設・病院・老人ホームなどへの訪問演奏も定期的に行なっています。この活動が定着してきてから、生徒たちの教育・福祉方面への進路希望者が年々増え続けています。これらの活動で育んだ優しさが演奏にも表われて、人の心をくすぐる音楽につながることを願っています。 

今井先生(以下、今井) コンクールでは、拍手は聞こえても聴衆の表情までは舞台から遠いので見えないんです。でも、地域のイベントなどでは、拍手してくださる方々の笑顔や、感動して泣いてくださる表情まで見られるので、誰かのために音楽を演奏することの素晴らしさも実感できるんですよね。

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石津谷 見てくれる、聴いてくださる人がいて、その方たちを勇気づけたり励ましたりするのも音楽の仕事。だからコンクールに出場して賞を狙うことは、目標のひとつかもしれないけど、部活動の目的ではないんですよ。「部活動を頑張ること=勝利至上主義=ブラック」と思われることが、非常につらく残念だな~と思います。

──それにしても、レベルの高い演奏を維持していくのは大変なことですよね。金賞を取ると、次の年のプレッシャーやモチベーションを保つ難しさに加え、毎年変わっていくメンバーのその代によって、指導の工夫も必要でしょうし。

石津谷 確かに、それぞれの学校が個々に活動していれば、途切れることもあるでしょう。でも、我々には連携のきずなという強みがありますので、音楽好きの子どもたちが、中学でも、高校でも吹奏楽を続けられる仕組みが機能しているうちは、一定のレベルを保っていくことができると信じています。 

──そう考えると、いかに積み上げて繰り返していくかが大事ですね。

石津谷 だから、次世代の指導者育成も重要です。教え子たちが教師になって現場に戻ってきてくれることは、何物にも代えられない喜びとなっています。

 

熱意を過熱と捉えず、応援してほしい 

──最後に、先生方が考える部活動の意義を教えてください

後平 子どもたちには、自分の力で、自分の生き方を身に着けてもらいたいと思っています。自分の言いたいことを言えずに我慢したり、やりたいことを見つけられずに、ただのんびり時間が過ぎてしまうのではなく、たとえ人の波の中で生きていても、その中で自分らしさを発揮してほしい。僕は、吹奏楽の顧問として、それを部活の中で指導してあげられるんじゃないかと思っています。

そういった意味では、いろんな事情があって部活の指導ができない先生も、そのままの姿を子どもたちに見せてもいいんじゃないでしょうか。リアルな姿を見せることで、子どもたちが将来どんな大人になりたいか、その答えやヒントが得られるかもしれませんし、僕は、部活動という制度を学校からなくしてほしくない。子どもと一番長く接しているのは親御さんだと思います。その次に接しているであろう教員が、必死で生きている姿をこどもに見せることは、他に代えがたい経験ではないでしょうか。

今井 卒業する子たちには、「何か一つでも頑張れることを見つけなさい」と伝えています。部活や勉強、なんでもいいですが、一つのことを頑張れば人として成長できるし、逆にできないことから逃げていたら、何もできない大人になってしまいます。中でも部活は、苦しいことや辛いこともたくさんありますが、一生懸命やるからこそ、本当の楽しさを感じられ、技術だけでなく心も成長できる場所です。

部活を頑張るという、子供たちにとっての生きがい、そして必要な場所を、大人たちは守ってあげてほしいと思います。頑張れる場所をなくしてしまったら、無限にある子どもたちの可能性を潰してしまうかもしれません。

石津谷 ここ数年、部活動を熱心に指導している先生が「悪」のようなイメージが定着してきているようです。部活動の顧問をやりたくないのにやらされている先生方の不満を解消するために、いっそのこと、平等で公平にするために、部活動制度を全部無くしましょうと。そうすれば教員の負担も軽くなって、労働環境が良くなるみたいなね。

でも、それはどうなんでしょう。確かに、時間外労働だと言われれば、それまでです。でも学校現場は、それで楽になるような単純な場所ではありません。多くの見方、考え方を持った生徒たちに目を向けないといけない。私たちには、子どもたちを育てるという、崇高な目的があるんですよ。

勉強ができたり、生きる力のある子は、部活動がなくなっても、自力で勉強を頑張れるのかもしれません。でも、長く教員をやってきたのでわかりますが、本当に勉強が苦手で分からない、という生徒たちもたくさんいるんです。その子たちを誤った方向に向かわせず、生きる力を身につけさせることができたのは、部活動で鍛えた精神力などの成果も非常に大きかったと思うのです。私たち顧問は、部活指導を熱心にやることで、真に生徒たちと向き合い、育ててきたと自負しています。

私は定年間際で、もう先の無い身ですが、先生方の中には、部活の顧問をやりたくて教師になった方、また、これから教師になろうとしている熱意ある若者たちも、大勢いるわけです。そういう熱い志を持った方たちのことも、認めて応援してあげてほしいですね。 

──全教員が部活動の顧問を強制的に割り振られる学校が多いために、そういう問題が出るケースもあるようですね。

石津谷 確かに、やりたくない顧問を押し付けられるのも問題があるだろうし、生徒全員が強制加入という制度も、考えものです。例えば、週1回の部活、毎日ある部活などに分けて、教員も生徒も選べるようにするなど、今ある制度で議論するのではなく、問題を解決するための新たな制度を設けることも考えてほしいですね。そして、頑張っている生徒たちや先生方のために、応援をしてあげてほしいんです。

我々教員は、いわば子どもたちの夢先案内人です。子どもたちがやりたいことを手助けして、応援して、彼らがめざす方向へ少しでも導いてあげたい。そんな熱意を持って指導している先生方は大勢います。その熱意を、過熱とは捉えないでほしいですね。もちろん、中には過熱している教員もいるかもしれませんが、過熱と一生懸命やることは同類ではありませんから。

 

最後に、今回の取材場所となった習志野高校吹奏楽部の皆さんにもお会いできたので、部長さん、副部長さんにも質問してみました。

 

本気で取り組む仲間だから、信頼関係が深まる

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習志野高校吹奏楽部 部長 齋藤 俊太さん

Q )習志野高校吹奏楽部に入部した理由を教えてください

先輩方の演奏会を見て、楽しそうに演奏、合唱している姿に憧れて、あのステージに乗りたいと思いました。

Q )部活動を通して学んでいると思うことは何ですか?

仲間の大切さです。人数が多いので、学年やパートの団結力が必要になってきます。また、自分一人ではできないことも、仲間が協力してまとまることで本番に成功できたりと、ときにはぶつかることもありますが、本気で部活に取り組んでいる仲間だからこその信頼関係が深まるということを学びました。

 

経験を活かし、伝えたいことを伝えられるように

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習志野高校吹奏楽部 副部長 渡邊 葵衣さん 

Q )小学校の頃から吹奏楽部に所属しているそうですね。管楽器講座の感想を教えてください。

受講して学んだことは、掃除の大切さと楽器演奏の技術面です。楽器を演奏するにあたって、掃除をすることの意味と、その大切さを理解できました。教える側に立ってみると、小学生に説明するのは難しいことだとわかりました。この経験を生かして、自分の伝えたいことが伝えられるよう、言葉の使い方を考えていきたいです。

Q )小学校からずっと副部長を務めていらっしゃるそうですね。続けてこられた理由を教えてください。

一番の理由は、吹奏楽部の活動が楽しいからです。部活動は大変ですが、仲間との時間や達成感を得ることができます。つらさも楽しさも、どちらも経験することで、部活の奥深さを知り、続けてこられたのだと思います。

 

終わりに

子どもたちが思う存分部活動に打ち込めるのは、部活を指導してくださる先生がいてこそ。そして、学校の先生だけでなく保護者や地域など、子どもにかかわるすべての大人と社会が学びの場を育てていくことで、子どもたちは水を得た魚のように、ぐんぐんと成長していくのですね。

しかもおそらく、彼らが成長して得たものは、いつか私たち大人や社会に巡り巡って返ってくる。その理想の形を、チーム習志野の先生方が育んできた部活動の取り組みから、知ることができました。

今回登場していただいた学校に通う子どもたちは、とても貴重で恵まれた環境にいることは確かだと思います。一人でも多くの子どもにとっての居場所を、私たち大人がこれからも育み、守っていかなければと、強く感じた取材でした。

 

撮影協力:根本麻由美

投稿者:michelle

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部活動で共に育つ!チーム習志野がマーチングで史上初の快挙を成し遂げた理由<前編>

中・高生を中心に人気ある部活動のひとつ、吹奏楽。今年も数々のコンクールに向けて、本格的な練習に取り組んでいる学校も多いでしょう。今回は、昨年度の全日本マーチングコンテスト*1で小・中・高と合わせて4校が全国大会に進出、金賞を受賞した千葉県・習志野市の「チーム習志野」に着目。各校吹奏楽部顧問の先生方(当時)に集まっていただき伺った、4校同時全国大会金賞という史上初の快挙を成し遂げた秘訣を、2回にわたってお届けします。

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2017年全日本マーチングコンテスト金賞のトロフィーを手に、左から今井麻美先生、石津谷治法先生、竹澤優次先生、後平剛先生。

 

ライバルながらチームを組み、レベルを引き上げた  

──マーチングコンテストでの全国大会4校同時進出・金賞受賞、おめでとうございます!石津谷先生は「未来永劫どの自治体も破ることができないであろう、不滅の金字塔を打ち立てた」とおっしゃっていました。 

石津谷先生(以下、石津谷) どんな部活の大会も同じだと思いますが、そもそも全国大会に出場するということ自体、非常にハードルが高く、そう簡単にできることじゃないですからね。

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習志野市立習志野高等学校吹奏楽部 顧問 石津谷 治法 (いしづやはるのり)

1958年京都市生まれ。中学校で吹奏楽に出会い、法政大学第二高等学校で没頭する。法政大学では交響楽団に所属し、聴くだけだった管弦楽の名曲を自ら演奏することで、よりクラシック音楽の素晴らしさと奥深さを知るが、この頃、楽器演奏能力に限界を感じ、指導者になるべく就職先は迷わず教員で決定。小中学校で楽器指導にまい進し、元NHK交響楽団クラリネット奏者の故・内山洋先生に、指導者としての在り方を徹底的に叩き込まれる。その甲斐あってか、毎日多くの子ども達と楽しく音楽に親しんでいる。モットーは“笑いと発想のない部活動に未来はな~い!”で、笑いの絶えないユニークな部活動をめざし、奮闘中!

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──マーチングコンテストでは、これまで習志野高校(以下、習高)は15回、第二中学校(以下、二中)と大久保小学校(以下、大久保小)は7回、全国大会に進んでいます。第四中学校(以下、四中)は、今回悲願の全国大会初進出でした。 

竹澤先生(以下、竹澤) はい。今回、小・中・高、4校で全国大会に進めたのは、習高が長い年月をかけ、地域の縦と横のパイプをつくってきた成果の表れとも言えます。習志野市では、小学6年生を対象とした管楽器講座を毎月開催しているのですが、講師として指導しているのは、習高吹奏楽部の3年生なんです。また、習高吹奏楽部は、定期的に市内の小・中学校にも赴いて、合同練習として指導をしています。この縦のパイプに加えて、横の連携として中学校同士や小・中での合同練習も行なっているんです。ライバルでありながら一緒に取り組み、全体のレベルを引き上げたことで、4校揃って全国大会に進めたのだと思います。 

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習志野市立第四中学校吹奏楽部 顧問 竹澤 優次(たけざわゆうじ)

1984年東京都生まれ。日本橋中学校でマーチングに出会い、その後、顧問の勧めで習志野高校を見学、その活動に感銘を受けて同校を受験、入学。同年度に着任した石津谷先生の3年間の指導で教員の魅力に触れ、教師をめざす。文教大学入学後も吹奏楽部に所属、部長を務める。平成20年に千葉県習志野市に正規採用。第二中学校に6年間、その後第四中学校に転任し現在5年目を迎える。お世話になった習志野市に恩返ししようと、生徒とともに「聴く人が感動する、愛のある音楽を」をめざし、日々精進中。

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石津谷 もちろん、合同で練習をしている自治体は他にもあるでしょう。習志野市の場合は、自治体が小規模なことが功を奏して、市立高校と市内の小・中での連携が、より頻繁に、そしてより親密にできるのかもしれません。 

──「小学校管楽器講座」はどんな経緯で始められたのですか? 

石津谷 学校五日制の完全実施で、土曜日が休日になったことがきっかけです。当時の習高吹奏楽部顧問を務めていらした新妻寛先生(現・千葉県吹奏楽連盟副会長)が、習志野市の特色を活かした子どもたちの居場所づくりを立ち上げようと、教育委員会や小・中校長会と協力して、平成14年度からスタートしました。

──高校生が小学生に教えるという試みは、確かに画期的ですが、そう簡単には実現できませんよね。関係各所の調整だけでも大変そうです。

石津谷 最初はさすがに、毎月続けられるか不安でした。でも、私たちには、小学生たちに音楽の基礎をしっかりと教え、音楽への興味を育くみ、広めて「音楽のまち習志野」の原動力にしようという、明確な目標がありましたので、続けてこられたのだと思います。しかも、習高生にとってもプラスになったことがありました。

 

教える立場になり、生徒の主体性が出てきた  

石津谷 管楽器講座では、基本的に我々顧問は口出ししません。レッスン中は、ドア越しに覗く程度にとどめています。すると、普段あまり積極的に発言せず、口数も決して多くない部員も、意欲的に小学生に丁寧に説明している姿が見られるのです。教える立場になると、自分の技を磨いたり、教えるための勉強も必要になってきますから、いい意味で、生徒の主体性が出てきたと思います。 

──素晴らしいですね。受講生にはどんな変化がありましたか?

石津谷 講座を毎年続けるうちに、中学、高校でも吹奏楽を続ける受講生が増えてきましたし、その中で習高への進学、入部希望者も増えたことに伴い、市の音楽レベルも向上していきました。本音を言えば大変なことも多いのですが、その苦労を上回るほどの成果が出ている実感があります。ちなみに竹澤先生は、管楽器講座の講師第一期生でした。当時を振り返ると、どうだった? 

竹澤 高校の後輩と小学生とでは、同じことを教えるにしても、やっぱり教え方が異なりましたね。わかりやすい説明を心がけて言葉の使い方を工夫したり、演奏で手本を示したりしていました。でも、そのためには、練習メニューを考えたり、手本になるような演奏の技術を磨く必要も出てきます。限られた時間で準備するために、学校での練習の仕方も、自然と工夫するようになりました。

それに、石津谷先生に出会って、小学校管楽器講座で指導する経験を積んだおかげで、人に教えること、そして自分が教えたことが返ってくる喜びを知って、教員をめざすようになりました。実は、それまで教員になりたいと思ったことはなかったので、もし習高で吹奏楽部に入らなかったら、教員にはならなかったかもしれません。 

石津谷 幼稚園や保育園、小学校の先生をめざす生徒も多いんです。管楽器講座の影響は大きいですね。  

──普通はなかなかできない経験です。今井先生も管楽器講座経験者ですか? 

今井先生(以下、今井) はい、教える側は経験しました。教わる側も経験できれば、さらによかったなと思います。目の前に明確な目標になる先輩方がいるのは、すごく幸せなことだと思うんです。今の時代、テレビや動画でもレッスンやお手本は見られますが、先輩から直接教えてもらえるのは、やはり大きな刺激になりますから。

 

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習志野市立大久保小学校吹奏楽部 顧問(当時) 今井 麻美(いまいあさみ)

1990年船橋市生まれ。小学校で吹奏楽部に入部し、船橋市立法田中学校でマーチングに出会う。その後、習志野市立習志野高等学校に進学し、たくさんの刺激を受けながら吹奏楽とマーチングに明け暮れる。楽器はトロンボーンを担当。高校卒業後は、マーチング講師の資格取得のために尚美ミュージックカレッジ専門学校に進学し、マーチング講習会の講師や小中高等学校のマーチング指導を行う。それを機に教師の道を志し、尚美学園大学に進学。教員免許を取得し、教師となる。大学時代は門脇賀智志氏(新日本フィルハーモニー楽団トロンボーン奏者)に師事。「粒々辛苦」の言葉を大切にし、聴いている方に楽しんでもらえたり、感動してもらえる音楽をめざして、日々子どもたちと活動している。

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石津谷 音も生で聴かないとね。百聞は一見にしかず、ですよ。月1回ではあるけれど、与えられた課題を1カ月後にクリアするという形で1年間取り組み、最後に集大成として、市の文化ホールで催される「ならしの学校音楽祭」で、成果を発表できるのもありがたいんです。年々、音楽祭での演奏レベルも上がっていることを実感しています。

 

ライバルに手の内を見せ、全体のレベルを引き上げる

後平先生(以下、後平) 習高側からすれば、自分たちの練習時間を犠牲にしているわけです。それでも、みんなで一緒に何かを作りあげようとしてくれる。その気持ちを育てているのは、習志野の伝統や、スタッフの先生方の力だと思います。だから、こうして4校が集まって話をすることも違和感がないんですよね。 

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習志野市立第二中学校吹奏楽部 顧問 後平 剛(ごひらつよし)

1986年北海道函館市生まれ。理科教師。小学校までは野球やソフトボールに明け暮れる少年だったが、中学校の部活動紹介で笑顔が素敵な顧問の先生に憧れて吹奏楽部入部を決意。中学校3年生の時に初めて北海道大会に出場し、会場のkitaraコンサートホールの素晴らしい響きに感動して吹奏楽を続けていこうと心に決めて現在に至る。夢は、いつかkitaraコンサートホールで指揮すること。初めて心に残ったクラシックの曲は、Z.コダーイが作曲した“ウィーンの音楽時計”という、ちょっとマニアックなタイプ。こだわりの強いクセのある生き方をしてきた変わり種だと自分で思うし、いつも妻にもそう言われて笑われている。


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今井 教員同士、メールや電話でお互い連絡を取り合ってますしね。

石津谷 同じ市内に同レベルの実力校があれば、普通ならライバルだから、手の内を見せないでしょ。交流した相手に負けたら嫌だな、という気持ちが先に立つけど、我々は最初から、習高を中心にしてお互い高めあって、手の内明かしあっちゃう(一同笑)。4校みんなで全国大会狙おうよ、どこの学校が欠けてもダメなんだよ、と。その熱意で4校すべてが「チーム習志野」であるという強いきずなを意識することで、結束を固め、お互いの学校を行き来しながら、合同練習で力を磨きあってきました。 

後平 そうやって、全体が盛り上がるという空気ができあがっていますよね。 

──その空気を作るのが、たぶん普通はすごく難しいんだと思います。

石津谷 そうです。本当は難しいですよ。実は、「一緒にやりませんか」と声を掛けても、断られることもあります。だからこうして、一緒に勉強しあう仲間がいて、うまく機能するのは、とても貴重なことなんです。  

──ちなみにみなさん、習高出身なのでしょうか。

 後平 僕は函館出身です。吹奏楽は長年続けてきましたが、マー チングは経験がなく、パレードの延長線くらいの認識でしたので、教員になってマーチングの指導をすることになった当初は、混乱することもありました。でも、前任校の四中赴任3年目に、県大会では金賞を受賞したものの次の東関東大会に進めなかった悔しさで、次年度の大会に向けての課題を本気で考え出したら、マーチングでやりたいことが見えてきました。次の転任先は、マーチング全国大会常連校の二中でしたので、赴任当初はそのハイレベルさに圧倒され、ただ後ろをついて歩くだけだったのですが、翌年には、選曲も自分のわがままを言い通しました。 

竹澤 僕は東京都出身です。日本橋中学校時代に部活でマーチングを経験し、高校でも続けたいと顧問の先生に相談したところ、マーチングも含めた吹奏楽が盛んな習高を勧められ、受験しました。ちょうど石津谷先生が習高に赴任された年に入学しまして、そのときからのご縁なんです。 

石津谷 教え子が教員として戻ってきてくれる。こんなに嬉しいことはないですね。 

竹澤 そして高2でドラムメジャー(マーチングバンドの指揮者)を担当したのですが、ちょうどその年に、二中がマーチングの県大会に初出場することになったんです。すると、石津谷先生から僕に、二中のマーチングのコンテ(動き方の手引き)を書くように、と指令がありまして。 

──中学生のマーチングは、高校生がコンテを作るんですか? 

竹澤 いや、普通は作らないんですけど(笑)。とにかく初出場だというので、二中に指導に行くついでに、コンテを書きました。その時はまさか、自分が教員になって習志野市に戻ってきて、しかもまた二中で指導することになるとは思ってもいなかったので、不思議な縁だなあと。 

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──さきほども「吹奏楽部に入るまで、教員になりたいと思ったことはなかった」とおっしゃいました。

竹澤 はい。でも、吹奏楽部の先生方の姿を見て、やりがいのある仕事だと思いましたし、音楽を専門にしなくても指導できるとわかったことも大きく影響しました。石津谷先生は社会がご専門で、僕も国語が専門なので。 

 

自分の部活を持ちたくて 

今井 私は習志野市の隣り、船橋市の出身です。小4で吹奏楽部に入部したその年に、習高の演奏会を聴いて感銘を受けまして、その場で母に習高に進学したいと宣言したんです。そして中学校でマーチングを経験し、ドラムメジャーを担当した3年生の時に初めて、全国大会に進出して金賞をいただきました。

そして初志貫徹で習高へ進学したのですが、3年連続で同じ中学出身の先輩達がドラムメジャーで活躍する姿に憧れて、私も、習高でもドラムメジャーをやりたいと決意したんです。念願かなって、高3でドラムメジャーをやらせて頂きました。

卒業後は、マーチング講師の資格取得をめざして専門学校に進んだのですが、二中、大久保小に指導の手伝いに通い、石津谷先生たちが指導する姿を見ているうちに、自分の部活を持ちたくなりまして・・・。思い切って大学に編入して、教員免許を取得しました。  

──やはり皆さん、教員になって吹奏楽部の顧問をやりたいという志を持って、教員になられたんですね。でも教員の場合、お仕事の大半は授業が占めますよね。そして生活指導や補習、学校行事があり、さらに部活動もとなると、本当にやることがたくさんあって大変だと思うんです。その中で、どうやってバランスを取るのでしょうか。特に、現場で教えるということは、授業にしろ、部活にしろ、子どもたちと向き合うことですから、エネルギーがいりますよね。 

竹澤 僕は、クラスの子たちも行事を盛り上げるのも大好きです。でも、とりわけ部活は、音楽と楽器が好きな生徒たちが、同じ目的を持って集まっている場所。生徒の頑張りがなければ指導も成り立たないので、生徒からエネルギーをもらうことが、逆に僕の原動力になっていますね。

実はこれまで、結果を求めて自分が気張りすぎると、結果が伴わないことが多かったのです。ですので今回、自分におごることなく、生徒たちの頑張りで全国大会に連れてきてもらえて、しかも金賞をいただくという結果を残せて、本当によかったと思います。 

後平 指導する分野ごとに、追求することは違うのかもしれません。私は、担当教科の理科では、理科の学びで新しい発見をさせてあげたいし、生活指導や学級指導では、集団の中で生きていく術、例えばルールを守ることの大切さも教えています。

部活動では、吹奏楽を通じて「今日より明日の自分がいかに人間的に成長できるか」をテーマに指導をしようと心がけています。また、平日は会議などで僕が不在のことが多いので、生徒が自分たちでメニューを組み立てて練習できるよう、自分たちの力で考えられるように指導しています。彼らも自主的に報告や質問に来てくれますし、週末にまとめて練習の成果を確認して、次の課題の解決方法を一緒に考えていくことが多いですね。

──先生がほかのお仕事で忙しい分、工夫されているということですね。 

後平 生徒たちも、自分たちでやりたいことや足りないことをやっていく、という自覚をしっかり持っています。それに、マーチングの経験がなかった私に、彼らが教えてくれることもたくさんありますから。

 

部活指導に熱心な先生は、授業も生活指導もできる

今井 私はこの1年、大久保小の子たちの「全国大会で金賞を獲りたい」という目標や夢を、叶えてあげたい一心で過ごしました。私自身、マーチングや吹奏楽を通じて、さまざまなことを経験したので、目標を達成した時の喜びや感動を、子どもたちにも味わわせてあげたかったんです。それに、全国大会金賞の結果はもちろん、その結果にたどり着くために、自分たちが納得できる演奏をし、目標を達成することで、人としても成長できると思いましたし。 

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石津谷 教師は、まずは授業がちゃんとできなくてはいけません。部活指導に熱心な先生の多くは、教科の指導も、生徒指導や生活指導もしっかりできる人たちだと思っています。私は、部活動に情熱を注ぐ子どもたちがいる限り、部活の指導をするのも教師の仕事だと思います。苦痛になったことはありません。むしろ、彼らに感謝しています。 

──どんな感謝でしょうか?

石津谷 ステージの上で指揮を振らせてもらい、子どもたちと一緒に、大好きな音楽を奏でられることです。結果としての金賞はもちろんありがたいけど、それより何より、1年間子どもたちと一緒に、大好きな音楽に向き合い、共に笑い、共に泣くことができる。そんな瞬間や感動を味わえるなら、どんな苦労も厭いませんよ。ですから、指導するときに常に頭にあるのは、子どもたちに感謝することなんです。

コンクールでも常々、「勝ったら子どもたちのおかげ。負けたら顧問のせい」と考えています。よい結果が出たら、それは子どもたちがよく頑張ったから。よい演奏にならなかったとしたら、それは顧問が勉強不足だったり、練習に対してどこかで燃えきれなかった、ということです。

私は、世の中にはその自覚がない指導者が少なからずいるのではないか、と危惧しています。講習会などで全国を回ると、残念なことに、そういう話をよく聞くのです。信じられないことに、銀賞や銅賞、金賞でさえも代表になれなければ「お前たちがミスをしたからだ」と生徒たちに怒っている顧問を見たことがあります。でも「そこまで生徒たちを追い込んだのはあなたでしょう」と言いたいですね。 

後編>に続きます。

撮影協力:根本麻由美

投稿者:michelle

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