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そんなところまで打ち合わせするんですか!? 壮大な世界が広がる『いきもの特急カール』(後編)

「そんなところまで打ち合わせするんですか? 壮大な世界が広がる『いきもの特急カール』前編」の続きです。 

木内さんの描く建築物

岩崎夏海(以下 岩) 木内さんの描く建築物が非常にお上手なんですよね。

木内達朗さん(以下 木) カールの家はジャン・プルーヴェの建築物である、エヴィアンのカシャ鉱泉センターホールをモデルにしています。

木内達朗 及川賢治 いきもの特急カール 岩崎書店のブログカールのお家です
木内達朗 及川賢治 いきもの特急カール 岩崎書店のブログエヴィアンのカシャ鉱泉センターホール

 これはカールの家のスケッチです。

木内達朗 及川賢治 いきもの特急カール 岩崎書店のブログ


及川賢治さん(以下 及) パースを意識していますか?

 はい。3Dのソフトを使って、この角度からは、どんな風に見えるかなと試したりもしました。

 3Dで検証されているんですね。建築家のスケッチみたいですよね。

 そんな大したものじゃないですけど、一応モデルはあるという感じで。ほとんどのものにモデルがあるんじゃないんですかね。

 僕はすごく日照が気になったので、位置関係がわかるように、地図を木内さんが描いてくださって、それが絵本の見返しになっています。

 

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 日の入る角度も考えていて、岩崎さんがこちらから光が入ったほうがいいというアドバイスをもらうこともありいろいろと試行錯誤していますが、誰か見て気付く人いるかなと思いながら(笑)

 そういうこだわりって、直接的には伝わらないかもしれませんが、なんとなくパワーとして伝わるんですよね。

 そう言ってもらえると、やったかいはあるのかなと思います。

 全ページかっこいいですよね。構図がほんとにかっこいい。

 ありがとうございます。

 

そんなところまで打ち合わせを!? 

 僕は柴犬を飼っているんですが、雷や雨がたくさん降ると、ブルブル震えて怖がるんですよ。それがヒントになって、このお話を考えました。プロローグにも書いてありますが、共生や自然エネルギー、宇宙の惑星のことなど、壮大なテーマをこの中に入れたつもりですが、実際に起こっている話はものすごく身近で、どうでもいいことなんですね。犬が雷が怖いというすごく小さいどうでもいいことと、壮大な設定とのコントラストがあります。

 いいですよね。

 僕にとって絵というのは、コントラストをなす概念を繋いで、1枚の絵に表現するということなんです。それは色や形、構図、どんなところにも当てはまっていて、反対概念みたいなものを繋ぐのが絵だろうと、いつも思っています。

 

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 この右側にいる人たちと、救急者の前にいる人たちのユニフォームが違うのにも、理由があります。

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このようにユニフォームが違います

 災害救助のときに必ず領域というのがあって、その領域の境目になると、両者がバッティングして、救助できないということがあるので、それを表現されたらいかがかなと思いまして。

 え? そんなことまで打ち合わせるんですか?

(会場笑い)

 (笑)。打ち合わせで、そういう面白い話をしたような気がします。

 そうですね。あとは、向こうに見えてくる街は、後で繋がりがあるようにしていただきたいというのは伝えました。

 なるほど。でも下手すると、全部が説明の絵になってしまいますが、やはり木内さんの絵作りが上手いから、そんなことなく、かっこいい画面になっているんですよね。僕もイラストを描いているときに、これ説明図だよなと、魅力がなくなってしまうときがあって、そのバランスが難しいですよね。

 そのあたりは、時間がかかるんですよね。この絵本も2年ちょっとかかってます。

  

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 ここは、トンネルの中です。伏線を感じさせるシーンになっているんですけど、そのまま何も明かされずに終わってしまいます。 

 僕もここを読んでいて、これ「2」もあるのかなって思いました。

 あるべきでしょうね。

 ここは確かに1番多くの方が違和感を感じられて、それで最初のプロローグをいれるきっかけにもなりました。

 鍾乳洞を描くのが意外と楽しかったです。

 自然の物って、構図を作りやすいんですよね。木や石は好きなような形で描けるので、描いていて楽しいですよね。しかし、木内さんの絵は、「上手いなー」というので、ずっとみてられます。このページが1番好きかもしれません。

 ありがとうございます。実はここのページを好きっていってくださる方、結構多いんです。

 左側だけ見ると、ヴィンテージの絵本みたいに見えたり、不思議なSF感が漂っているますよね。

 

どこを描き、どこを省略するかというのが、イラストレーターの個性を作る

木内達朗 及川賢治 いきもの特急カール 岩崎書店のブログ

 最後に駅に着くシーンですが、このページを描いていて、先ほど乗り込んだ乗客と服が全然あってないじゃんて(笑)

(会場笑い)

 最後の最後に気づきまして、それで揃えられるところは揃えました。絵本って1箇所直すと全部直さないといけないじゃないですか。

 そうですね。僕は絵を描いているうちに、次第に上手くなっていくので、最後のページを描くときには、最初の絵が嫌になってきていて、無限に直し続けるというのがあります。

 ありますあります(笑)

 あと、駅の天井を見ても、作りがリアルなんですよね。構造をちゃんとわかってらっしゃって、その上でデザインされているので、本当に建築家だなと思います。

 そうですね。あと、実際駅に行って、全部描けばいいかというと、そうはいかなくて、省略するところもあるんですよね。

 そうですね。ほぼいらないですね。全部描いているとごちゃごちゃしてしまうので。

 そこも腕の見せ所ですよね。

 はい、どこを描いてどこを省略するかというのが、イラストレーターの個性を作る、すごく大事なところですよね。

 及川さんは、絵は、手描きですか? デジタルですか?

 『SUNAOSUNAO』は手描きですよね?

 はい。あれは全部手描きですけど、最後は自分でスキャンをしてます。

 スキャンをして加工をなさるんですか?

 ほとんどそのままですが、自分で文字をうったり、好みの濃度でスキャンしていますね。

 手描きの割合の方が多いですか?

 そうですね。基本は全部手描きですね。

 『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』は?

 線画だけ手描きで、あとはパソコンで色をつけたり。基本的な主線はアナログですね。

 そこで及川さんの味がうまく出てるんですよね

 でもパソコンも大好きです。やり直しできるのが、本当に大きいです。

 そうですね。やり直しがきくというのが、僕もデジタルを使っている理由で、僕の絵は、手描きでは描けないです。だから絵が上手いかどうかはわからないですが、デジタルでしか描けないので、そんな偉そうなもんじゃないですよね。

 

違和感がないと駄目だと思います

 絵本を作るにあったって、大体の絵が完成してきたら、デザイナーの方が入って、文字の配置などを相談していくんですね。そこでデザイナーは、大島依提亜さんでお願いしたいと、木内さんから頼まれました。大島さんが装丁を担当された『ネコヅメの夜』という絵本を見ると、絵にのっている字が名人芸で、濃度が絶妙に毎ページ違うんですよね。

 大島さんもこだわりの方で、絵本に温度を与えてくれるという印象があります。

 そうですね。カールも、ルビが非常に特徴的になっています。

 そうですね。ルビの色がページごとに違います。

 

f:id:iwasakishoten:20180330203228p:plainルビの一部です

 

 かわいいですよね。本文に颱風とか難しい漢字が使われてますよね。

 そうなんですよね。それは僕も知らないあいだに(笑)

 子どもに漢字を覚えてもらえるかなと思い、ルビも全ての漢字に振りました。普段はひらがなにする言葉さえも、あえて漢字でいくというコンセプトで、僕が組みかえさせていただきました。

 以前、子どもの中2病心を刺激するみたいなことを仰ってましたよね。子どもなのに中2病みたいな(笑)

 「漢字かっけぇな」ってことですね。

(会場笑い)

 いくところまでいくならいいんじゃないですかねと、僕も思いましたけど。

 でも、雲間とか絵本であまり使わない言葉は、最初から木内さん使われていましたよね。

 そうですね。

 僕は異物感というか、違和感がないと駄目だと思うんです。よく例としてお話するのは、『ぐりとぐら』で、卵がでてきたから、雛に孵してあげる話なのかなって読者を油断させといて、みんなでそれを食べるんです。そこの異物感というものが、名作として受け継がれていく、大きな理由じゃないかなと思っているので、木内さんの異物感みたいなものは、最後まで残そうと思いました。今の世の中、えぐみをとろうとして、かえって魅力をなくしている物がたくさんあると思っています。及川さんの作品も違和感を大事にされていますか?

 違和感をいれようと思ってやっているわけではないけど、最終的に(笑)

 及川さんの視点自体が変なので、そこが素晴らしいですよね。及川さんの絵本の『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』や『おふろのおふろうくん』がすごい大好きです。

 ありがとうございます。

 僕も絵本をつくるとしたら、及川さんみたいな、ちょっとナンセンスで変なものを思考していたんですが……。

 僕、変なものをつくろうとは思ってない。これが王道になると思っています。

(会場笑い)

 そうなったら素晴らしいですよね。カールは最初からメジャーな方を目指している絵本で、でもやってみたらこれはこれですごい楽しい仕事でした。

 デザインも含めて、素敵な魅力があって見ちゃいます。引き込まれる話だなと。早く次回作を作ってください。

 2作目ですね。一応2作目のお話はできているんですよね。それで絵を描こうと思っているんですけど、岩崎さんが2作目と3作目とは同時進行でお願いしますと言われちゃって。

(会場笑い)

 それで3作目の話はどうしようってことに、なっているんですよね。

 たしかに2と3が同時に出たら嬉しいですよね

 同時にでたら嬉しいですし、3作目があるという前提でないと、上手くお話が作れないんですよね。3作目を描いているときに、2作目にこうしておけばよかったというものが、出てくるんです。スターウォーズとかバック・トゥー・ザ・フューチャーも2、3が同時に作られています。

 こういうタイプのアドバイスを、打ち合わせで色々教えてもらって、今まで仕事してきた編集の方と違う、やっぱり『もしドラ』の人だなっていうのがすごくわかって、新鮮で楽しいです。

 そういうくだらないことばっかり考えているんですよね(笑)

 

及川さんが聞きたい、木内さんの構図の話

 構図の話をしたいと思っていて、木内さんの絵は、ものすごく構図がいいですよね。

 ありがとうございます。

 それで僕、構図にすごく悩みがあって、上手くできないんですよ。どの構図がいいのか、わからなくて、どうしたらいいですかね?

 基本的には黄金分割ですよね。例えば巻き貝や、葉っぱの生え方など、心地よくみえるのは、黄金比率でできているんですが、画面をそういう風に分割するんです。

 黄金比って、よくモナリザがどうのこうのってあるじゃないですか。はぁ? ってなるんですよ

(会場笑い)

 (笑)。あれは恐らく後付けなところが多いかもしれないですけど、僕が描くときは、一応黄金比率をなんとなく意識して、人物の置く位置を真ん中に置くよりは、もうちょっと端に寄せると、心地よい構図になるんじゃないかといったことを考えてますね。

 密度がないところと、ぎゅっと集まったところを出すんですね。

 そうです。絵の中で、広い空っぽの面積があるところと、すごくぎゅっと詰まったところをつくる、というのはポイントですよね。あと色も、ぎゅっと見えるように、配色をする。だから構図はぎゅっとしてなくても、色使いによって、そうみえる場合もあります。

 明るい色と暗い色の組み合わせで。

 はい、そうです。明暗も大事ですね。

 そうか。形だけで捉えようとすると、駄目なのか。

 その辺のことは、僕も講師をしている青山塾で教えています。

 そこに通えばいいですかね。

(会場笑い)

 いやいや、先生をやってもらいたいくらいです。でも悩んでらっしゃるといっても、及川さんのマンガを拝見していると、構図もすばらしいですよね。

 『SUNAOSUNAO』でバイクの向こう側に登場人物がみえるっていう構図があって、あれなんか非常に素晴らしいですよね。

  

↓木内さんが講師をされている青山塾です

aoyamajuku.jp

↓及川さんもたくさんの本をだされています。

SUNAO SUNAO

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おふろのおふろうくん (学研おはなし絵本)

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さいごに

 それでは、お時間が近づいてきましたので、最後に一言ずつお願いします。

 やっぱり木内さんって面白いなと思って。実は何回かお会いしてるんですけど、こんなに喋ったことはなかったんです。僕は絵が上手い人がいるな、とずっと思っていて、お話してみたいなと思っていました。それでこういう機会が偶然生まれて、今日はすごく楽しかったし、すごく勉強になりました。

 ありがとうございます。及川さんのことは東京イラストレーターズ・ソサエティ
という団体の公募の審査のときにお会いしてから、すごく
親近感を覚えて、今日はお相手していただきどうもありがとうございました。絵本の絵を一通りお見せして、その場面について言いたかったことは言えたかなと思います。自分にとっても、とても充実した時間を過ごせました。どうもありがとうございました。

 

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いきもの特急カール

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投稿者 大塚芙美恵