岩崎書店のブログ

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幸せになる!だっこの不思議

あなたはお子さんをどのくらいだっこしてますか?

「ハグのきっかけをくれた絵本」と多くの読者からお声をいただいている『だいすき ぎゅっ ぎゅっ』。前回は本作の訳者である福本友美子さんに、作品の魅力を伺いましたが、やはり、人気の最大の秘密は「ぎゅっ」とだっこする場面にありそうです。そこで今回、担当編集者と共に『幸せになる脳はだっこで育つ。』(廣済堂出版)の著者でスキンシップ研究の第一人者である、身体心理学者の山口創先生の研究室を訪ね、だっこの効用や影響などについてお聞きしました。

山口創 だいすきぎゅっぎゅ 岩崎書店のブログ

山口創(やまぐちはじめ)

1967年静岡県生まれ。桜美林大学リベラルアーツ学群准教授。臨床発達心理士。 早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は、臨床心理学・身体心理学。親子や夫婦、恋人同士のスキンシップについての研究を行う。『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)、『手の治癒力』(草思社)など著書多数。

 

幼少期のスキンシップがその後の人格形成につながる

 

山口コミュニケーションの基礎は、幼少期につくられます。特に、肌に触れる「タッチング」は、生後初期段階から大事であると言われているため、親子のスキンシップについての研究を始めました。データをとってみると、幼少期のスキンシップの有無によって、その後の人格形成に違いが出ることがわかりました。例えば、スキンシップが多い子どもは、共感能力や自己肯定感が高く、かつ攻撃性が低いなど、情緒的に安定しており、逆にスキンシップが足りない子どもは、情緒が不安定で、鬱病や摂食障害につながるなどのデータが得られています。

 

── そもそも、親はなぜ子どもをだっこするようになったのでしょうか。

 

山口哺乳類のだっこの原点は、主に「運搬」です。ねこやねずみは、子を運ぶときに口でくわえますが、子ねこたちも親が運びやすいように背中を丸め、おとなしくしています。これを「輸送反応」と言いますが、人間の赤ちゃんも、だっこされると自然に背中がまるくなりますよね。これが子どもにとって居心地よく、安心できる姿勢だと言われています。

 

── 確かに、おなかのなかにいるときから丸まっていますよね。だっこされる準備だったのでしょうか?

 

山口そうかもしれませんね。泣いている赤ちゃんをだっこしながら歩くと、泣きやんで眠ることがありますね。これは輸送反応によるもので、おとなしくなるだけでなく、リラックスした状態になるのです。だっこの原点は、この運搬から、子どもを「守る」、「安心させる」というだっこに移っていったのではないかと言われています。

 

子どもに対する影響大!愛情ホルモン「オキシトシン」

 

── 確かに、猿やカンガルーなどの動物は、まだ動けない子をだっこしたり袋に入れて敵から逃げますよね。

 

山口そうです。守られる→安心する、へ移行した面もあるでしょうが、実はスキンシップによって、「オキシトシン」というホルモンが、私たちの身体に分泌されているのです。このオキシトシンによって、愛情や安心感が高まるということが、近年の研究でわかってきました。オキシトシンは元々、出産前後の女性の身体の末梢組織で働くホルモンとして発見されたため、陣痛促進や母乳分泌に関わるものと考えられていました。しかし、ここ10年くらいの間に、もうひとつ別のはたらきがあることがわかってきたのです。これが、オキシトシンが「愛情ホルモン」と呼ばれるゆえんですが、脳内の中枢組織における神経伝達物質として、愛情の伝達や信頼関係など、対人関係に影響する重要な役割を果たしているのです。

 

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── 具体的には、どんな作用があるのですか。

 

山口スキンシップによって、親にも子にもオキシトシンが分泌され、どちらも愛情が高まります。また、オキシトシンにはストレスを抑える作用もあるので、例えばいらいらしているときにだっこすれば、母親の気分は軽くなるし、泣きわめく子どもも少し落ち着きます。それから、短期的な記憶力がアップするという研究結果も出ています。

 

── 確かに、泣いている赤ちゃんを見ると、思わずだっこしたくなります。親も子も、だっこすることで、ストレスが緩和されるということですね。

 

山口そうですね。オキシトシンは、親子間のみならず、恋人や友人など他者との信頼や友好関係の構築にも関わるのですが、特に子どもに対する影響が大きいかもしれません。というのも、オキシトシンの受容体の数が、人生のかなり早期に決まってしまうことがわかってきたからです。生まれてから早い時期にちゃんとスキンシップをして、オキシトシンを出せるか否かで、オキシトシンの影響をたくさん受けられる脳になるかどうかが決まるということです。たくさんオキシトシンを出せるようになれば、対人関係以外にも、記憶力やストレスへの強さなども、大人になっても保てるということになります。

 

── 早期とは、何歳くらいまでですか?

 

山口大体一歳か一歳半くらいまででしょうか。

 

短時間でしっかり!「ちょい抱き」だっこがおすすめ

 

── 家庭の事情によって、親子関係の状況も変わってきますね。お子さんと一日中ずっと一緒にいるという方もいれば、短時間しか一緒に過ごせない方もいらっしゃいます。オキシトシンの量は、一緒にいられる時間に比例するのでしょうか。

 

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山口いいえ。長時間の必要はなく、むしろ短時間でいいので、しっかりだっこしてあげるほうがいいのです。なかでも私が推奨しているのは、「ちょい抱き」だっこです。一時間のうち、5~10分でもいいので、しっかり子どもを抱っこして、子どもの目をみてコミュニケーションをとる。すると、だっこして大体5~10分後に、オキシトシンの分泌量が高まってきます。オキシトシンは触れた瞬間に出るわけではなく、じわじわっとゆっくり出てくるのです。しかも、そのあと少し離れていても、オキシトシンの量はしばらく高い状態をキープし、約一時間後に下がってきます。そのタイミングでまたスキンシップをしてあげれば、オキシトシンの分泌がまた増えます。こうして「ちょい抱き」を繰り返すことで、常にオキシトシンが高い状態を維持することができるのです。

 

── 長時間一緒にいられなくても、スキンシップの効果が得られそうですね。

 

山口そうですね。早くごはんを作らなきゃ、洗濯物を取り込まなきゃ、と育児しながらやらなければならない用事がたくさんあって大変だと思いますが、その5~10分だけは、他のことを一旦忘れて、子どもだけに全力でかかわってあげてほしいのです。すると子どもも、「お母さんは自分のことをちゃんと見てくれている」と安心して、残りの50分くらいは一人遊びできるなど、離れていても平気という状態になるわけです。一時間くらいして子どもが不安になってきたら、また「ちょい抱き」をして、安心したらまた離れる。

 

── ずっとべったり一緒にいるのがいいわけではないんですね。

 

山口はい、くっついたり離れたりを繰り返せば、母親もそんなにストレスをためずに、子どもと楽しくコミュニケーションできるのではないでしょうか。絵本『だいすき ぎゅっ ぎゅっ』を読んで特に印象に残ったのも、ストーリーが楽しくて心が温まることはもちろん、時間を意識して時計と一緒に一日が進んでいくところなんです。何かあるごとに「ぎゅっ」とするところが、「ちょい抱き」を思い出すんですよね。

 

── あっ、本当ですね!何かあったら「ぎゅっ」、一時間ごとに「ぎゅっ」とする。まさに「ちょい抱き」推奨絵本だったとは(笑)。ある保育園の先生のレビューでは「絵本の読み聞かせのあとはみんなでハグする時間と決めていますが、恥ずかしがってなかなかハグできない子もいる。でも『だいすき ぎゅっ ぎゅっ』を読んだあとは、恥ずかしがりやの子でも抱きついてくる」と書かれていました。

 

大事なのは、安全基地としての役割を果たすこと

 

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山口日本ではハグする文化がありませんから、わざわざ「ぎゅっとハグしよう!」という機会を設けないと、子どももなかなか自分からは言えないと思います。その点で、ハグを何度も繰り返す『だいすき ぎゅっ ぎゅっ』は、スキンシップが当たり前のことのように描かれていますから、読んだ後に自然とスキンシップできるのではないでしょうか。

 

── スキンシップの習慣があるかどうかで最初は戸惑いますが、やっぱりみんなだっこは好きなんですね。それから、先生の著書によると、上のお子さんはそんなにだっこを求めてこないけれど、下のお子さんは反対に、よくくっついてくると書かれていました。我が家もまさに同じ状態なんですけど、やはり子どもの性格によって、スキンシップの仕方や関係も違ってくるのでしょうか。

 

山口そう思います。子どももそれぞれですので、べったり密着してほしいというお子さんには、そういうスキンシップをしてあげてほしいし、あまり求めないお子さんなら、もちろん軽いタッチをしてあげればいいと思います。その子がどんなスキンシップが好きなのかを見極めてあげることが大事なのではないでしょうか。

 

── スキンシップにも好みがあるのですね。だいすき ぎゅっ ぎゅっ』でも、ハグだけでなく、手をつないだり「たかいたかい」をしたり、よく見るといろんなスキンシップがあります。

 

山口子どもが自由に遊びながら、時間になるとお母さんがぎゅっとしてあげる、という展開もいいですよね。私が行なっている講演では、一歳くらいまでのスキンシップはだっこをしてあげましょうと話しますが、ハイハイなど移動できるようになってきたら、「子どもが求めているときに」だっこしてあげればいいですよ、という話に変えていきます。そうしないと、いつまでたっても親が追いかけてはだっこすることになって、こどもが自分ひとりで行動したい、探索や冒険したいという意欲を妨げてしまいます。子どもが求めてきたら、必ずちゃんと抱っこしてあげる、ということで充分だと思います。それが、愛着の形成にも、とても大事なんですよ。

 

── 「愛着」ですか?

 

山口「愛着」は、たとえば子どもが探索したときに危険な状態になったり、不安になったときに、親のところへ戻ってだっこしてもらうことで安心できる、いわば親が、安全基地としての役割を果たしたときにつくられる関係です。この繰り返しで愛着の形成ができ、自立への成長につながりますので、ずっと親のそばにいればいい、というわけではありません。とはいえ、親が安全基地としての役割を放棄すれば、子どもは危険や不安になったときに、親の元に行ってなぐさめてもらおうと思わなくなり、愛着の形成がうまくできず、自立もできなくなってしまいます。オキシトシンの受容体の数が決まる一歳~一歳半のこの時期は、「愛着の敏感期」でもありますので、やはり、日頃からスキンシップで親子の絆を深めてほしいと思います。

 

おわりに

だっこやハグのスキンシップが、オキシトシンによって親子の愛情を育むことはもちろん、ストレスを緩和する効果や記憶力にまで関係するとは驚きでした。しかも、ずっと一緒にいるよりも、離れている時間も成長のために大事なことだとは!改めてだっこの奥深さを知ることができました。しかも、ちょい抱きだっこや、安全基地としての役割も描かれているとわかった『だいすき ぎゅっ ぎゅっ』でした。

だいすき ぎゅっ ぎゅっ

だいすき ぎゅっ ぎゅっ

  • 作者: フィリスゲイシャイトー,ミムグリーン,デイヴィッドウォーカー,福本友美子
  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 2012/11/28
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ちなみに、この秋刊行しました、同じく親子のきずなを描いたうさぎの親子の絵本『たからもののあなた』も、山口先生から高い評価をいただきました。発売後一週間で重版が決定&言葉かけとハグの効能をまとめた冊子つきで、絶賛好評発売中です!

たからもののあなた (えほんのぼうけん 83)

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投稿者名:michelle