イノベーションてどうやるの? 株式会社横浜DeNAベイスターズの場合
こんにちは、岩崎書店イノベーション部の元吉です。
球春到来! プロ野球が開幕しました。
突然ですが、私は横浜DeNAベイスターズの大ファンです。
昨年は2年連続でCS進出。そして、日本シリーズにも進出しました。
残念ながら、日本一にはなれませんでしたが、今年は、先発左腕カルテット、ルーキーの活躍、若手の成長などなど、明るい材料が多いベイスターズ。
ファンとしては「今年こそは!」と、例年以上に期待を抱いてしまいます。
私が所属するイノベーション部は、このブログをはじめ、業界の常識にとらわれない新たな試みを模索しています。
当然、他社の取り組みには関心が高く、過去のブログでもいくつかご紹介させていただきました。
他社の取り組みを紹介した過去のブログはこちら
長年低迷していたベイスターズ。近年の好調を期に、是非ブログで取り上げたいと思いました。社内の一部から「公私混同だ!」という声が聞こえてきそうですが、あくまでも仕事として、真面目に企画しました。
観客動員数、動員率共に球団史上最多を達成!
2011年12月にDeNAがベイスターズのオーナー会社となりました。
ベイスターズの2017年シーズンの観客動員数は1,979,446人(2016年:1,939,146人)。この数字は、DeNAが参入する前の2011年シーズンと比較をすると、なんと79.5%UPしています。横浜スタジアム動員率は96.2%(2016年:93.3%)、大入り満員試合は63回(2016年:54回)チケット完売試合も38回(2016年:31回)を記録するなど、いずれの数字も球団史上最多を更新しました。
数字が示すように、ベイスターズは、今一番プロ野球界で、チームとしても企業としてもイノベーションが成功している球団だと思います。
株式会社横浜DeNAベイスターズの企業としての取り組みについては、既にテレビや新聞などでも紹介されています。今回は、私自身の勉強も兼ねて、イノベーションに取り組む現場スタッフの方々の工夫や苦労など、生のお話をうかがいたいということで取材協力をお願いしました。
ベイスターズが春季キャンプ中の2月下旬、球団事務所を訪問し、経営企画本部 広報部 広報グループ グループリーダーの河村康博さんにお話をうかがいました。
コンセプトは「継承と革新」
──ベイスターズに入社したきっかけを教えて下さい。
河村康博さん(以下、河村) 前職は、企業の広報活動のお手伝いをするPR会社で勤務し、2014年3月にベイスターズに入社しました。
新卒から5年間、PR会社という立場で色々な企業の広報活動に携わってきましたので、その経験を活かして一つの企業の中の広報として働きたいと思い、転職を考えるようになりました。
私自身、スポーツは好きですが、特に野球が好きという訳ではありませんでしたが、ご縁をいただき、ベイスターズに転職しました。
DeNAになってから、球界外からの考えを積極的に取り込もうと、私のような球界の外から来た人材を多く雇用しています。
──どのような業務を担当されていますか?
河村 広報部は大きく分けて、チームに付いている広報と、企業としての広報があるのですが、私たちは後者の企業広報を担当しています。
チーム付きの広報は、選手のインタビューや取材の対応を現場で行いますので、春季キャンプ中の今は、チームと一緒に沖縄にいます。
私は、株式会社横浜DeNAベイスターズという会社の広報として、事業内容に関する部分を担当しています。
最近はありがたいことに、講演会の依頼なども増えてきています。球団社長である岡村の講演会などに帯同し、それらの調整などを行うこともあります。
ですので、私は選手と接する機会は多くありません。
──DeNAとして、最初に取り組んだことは何ですか?
河村 DeNAになってからすぐに作った『次の野球』という本があります。
横浜DeNAベイスターズは「継承と革新」という言葉をコンセプトとして掲げています。球団の歴史を大事にしながら新しいことに挑戦していきますよ、というメッセージを込めた本です。
──ファン向けのメッセージ本ということですか?
河村 元々は社内向けに、社員のコミュニケーション用・教育用のツールとして考えていたのですが、横浜DeNAベイスターズという会社をアピールするきっかけにもなるということで一般にも販売しました。
当時のスタッフ、職員、そして現役選手からもアンケートを取りました。実現する、しないはあまり考えずに「こういう企画があったら面白いよね。」というアイデアをとにかく出してもらい、イメージを膨らませるために、イラストをふんだんに盛り込み、1冊の本にしました。
中を見ると結構面白くて、絶対に無理というアイデアから、海外に目を向けると実際に実現しているアイデア、そしてベイスターズで実現したアイデアもあります。
出典:『次の野球』企画・発行:横浜DeNAベイスターズ 出版社:株式会社ポプラ社
一般販売も行われています。
──会社として新しい企画を進めていく際に、現場からの反対意見などはありましたか?
河村 企画によっては、反対意見はありました。しかし、反対意見が出たからすぐにやめようではなく、どのような形にすれば実現できるのかを模索しています。その中で、成功例をひとつずつ積み上げて、周囲の反応を見ていくことが、少しずつポジティブになっていくきっかけになっていると思います。
様々な経験を通して、今ではスタッフの考え方が、同じベクトルに向かっていると思います。
──企画を実現させるためには、社内の部署間のコミュニケーションが大切だと思います。御社のコミュニケーションはうまくいっていますか?
河村 2012年の初年度シーズンを終え、まずは単純に、どういう方たちが横浜スタジアムにご来場されているのか分析を行いました。
その結果、一番多いのは、20代後半から30、40代の男性だということが分かりました。私たちはそのような方を「アクティブ・サラリーマン」と分類しています。
そのうえで、ペルソナ(典型的なユーザー像)を作って、DeNAベイスターズのメインターゲットは「アクティブ・サラリーマン」だということを、社内に共有しています。
各部署で取り組む企画はいろいろあるのですが、中心にメインターゲットの意識を共通認識として持っていることで、コミュニケーションは図れるようになりました。
初年度はとにかくデータを集め、その後は、さまざまな企画について、PDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Act:改善)サイクルを回してトライ・アンド・エラーを繰り返しています。
そういう意味では、コミュニケーションに対して、何か飛び道具を出したということではなく、地道にひとつひとつ取り組んでいると思います。
その結果、観客動員数も増えているので、私たちがやってきた方向性は間違っていなかったと、社内的にも確認ができていると思います。
横浜スタジアムの改修工事が進行中
──観客動員数増加に対応するために、ドーム球場などを新設せずに、横浜スタジアムを改修することにした理由は何ですか?
河村 コーポレートアイデンティティーに「継承と革新」があります。
球団として、守るべきものはしっかりと守らなくてはいけない、歩んできた歴史を大切にしないといけないという思いがあります。
そのなかで、横浜スタジアムは横浜開港から街の歴史の中心地でもあります。ルー・ゲーリックやベーブ・ルースなどもこの地で野球をプレーしているんです。
そのような歴史を考えたときに、ファンの皆さんはもちろん、横浜市民の気持ちなどを考えると、この場所はすごく大事であるという結論に至りました。
観客動員数増加という背景もあり、横浜スタジアムのキャパシティーを増やして、もっとたくさんのお客様に足を運んでほしいということで、約85億円をかけて横浜スタジアムを改修することにしました。
85億円というと、それなりに立派な新しい球場がゼロから作れるかもしれませんが、それでも今の場所に留まることに重きを置いたというのが私たちの判断です。
──DeNAがオーナー企業となって、集客が増えた理由は何だと思いますか?
河村 ちょうど、プロ野球ビジネスの形が変わるタイミングということも要因の一つだったと思います。CDからLIVEに価値が移った音楽業界と同じで、今は野球もテレビから球場でのリアル観戦に移っています。
それと同時に、ベイスターズというチーム、横浜という場所、市民、ファンが持っているポテンシャルは大きいと思います。
神奈川県全体の人口は約900万人を超え、横浜市内だけでも約370万人います。
「市」という規模で持っている力は、横浜市は全国で一番ではないでしょうか。
それだけ、ブランド力も高く、誇り、アイデンティティー、地域愛の強さは、恐らく12球団で一番だと思います。
我々は、そういうバックグラウンドにある要素のコミュニケーションを円滑化させるために、パイプを整備する役割を担っていると思います。それぞれの想いがしっかりと循環すれば、集客数も増えるだろうという考えを持っていました。
──私はスタジアムでの応援以外では、レプリカユニフォームをコソコソ脱いでしまうような、恥ずかしがりやなファンでしたが、今では堂々と外でも着ていられるようになりました。デザインもとてもカッコいいですね。
河村 横浜DeNAベイスターズという球団、そして会社がカッコいいよね、お洒落だよねと思ってもらえることは、とても強みになります。
弊社のクリエイティブ部門や、イベント担当、球場内の演出担当など、関係者全員が、横浜DeNAベイスターズというものを最大限魅力的に見せる努力をしています。
昔ながらのファンの方だけでなく、野球に興味がなかった方が球場に足を運んだときに、ルールなど細かいことは分からないけど、何だか楽しいと思ってもらえるような演出や工夫をしています。
──関係者全員の方向性を統一するために何か工夫をしていますか?
河村 お客様が求めているものを探るため、マーケティング分析をしているチームがありますが、横浜市民の約1万人を対象にwebアンケートを取ったことがあります。
アンケート結果によって、やはり横浜という街が持っているポテンシャルはとても高く、魅力的であることが明らかになりました。
しかし、当時ベイスターズというチームが同じような印象を持たれていたかというと、決してそうではなかった状況でした。
横浜という街と同じように、ベイスターズも魅力的だという認識を持っていただきたいと考えています。
そのアンケートの中で「横浜のイメージは?」という項目には「海と港の街」「お洒落で開放的な街」「外国人が多い国際的な街」という回答が上位に来ました。
その後の取り組みとして、横浜のイメージに合わせて、球場の座席や、ユニフォームの色を変えたり、球場スタッフのユニフォームデザインを変えたりしました。
そして、「I ☆(LOVE) YOKOHAMA」という言葉を作り、それを合言葉にして、今まで以上に、スタッフ、選手、ファン、横浜市民とコミュニケーションをとるようにしていきました。
──得点の際に、阪神では六甲おろし、ヤクルトでは東京音頭を演奏し、ファン全体で盛り上がっています。最近のベイスターズの得点の際には、応援団が「横浜市歌」を演奏するようになりました。横浜市民として、これほど馴染みのある曲は他にありません。ファンの一人として、とてもすばらしいと感じています。
河村 応援団の方々とも日々コミュニケーションを取っています。
初めは、DeNAというIT企業が来て、警戒感を持たれた方もいると思いますが、日々のコミュニケーションを通じて、球団のやりたいことを理解してくれて、お互いの連携が取れるようになりました。
その結果がベイスターズの得点シーンでの「横浜市歌」の演奏につながっていると思います。こちらとしても、とても嬉しいですね。
今までも、様々なステークホルダーと全く連携できていなかった訳ではないと思います。しかし、それぞれの見ている方向性や、思いが若干食い違っていたのかもしれません。DeNAになって、我々だけでは何もできないことを認識し、コミュニケーションに重きを置きました。その中に、DeNAとしてのコンセプトが柱としてあり、そこがブレなかったことがよかったのだと思います。
ベイスターズのライバルは、東京ディズニーランド!
──企画を考えるうえで、他球団の取り組みなど、常に意識しているものはありますか?
河村 もちろん、他球団の取り組みも参考にしますが、例えば、東京ディズニーランドなども参考にしています。
単純に、我々のライバルはどこかと考えた時に、他球団や他のスポーツというのももちろんあるのですが、世の中に数多ある『エンターテインメント』というくくりの中でのライバルを意識しなくてはいけないと思っています。
そんな中から、貴重な土曜日、日曜日、もしくは平日の夜の時間、横浜スタジアムに足を運んでもらうことを考えなければいけません。
例えば土曜日にご家族で出かけることになった時、奥さんは買い物に行きたい。お子さんは遊園地に行きたい。でも、家族全員で過ごすならば、横浜スタジアムに行ってベイスターズの野球を観るのがいいよね、と思ってもらうことが大切だと思います。
遊園地、テーマパークの取り組みを参考にしたり、もちろん他球団の取り組みも参考にしながら様々な企画を作っています。
──ベイスターズと同様に勢いのある、広島東洋カープの取り組みなどは気になりませんか?
河村 もちろん気になります。地域愛というのは横浜にもありますが、広島の歴史の中でのカープの位置づけは独特だと思います。
私たちも横浜市の子どもたちに、ベイスターズの帽子をプレゼントしたり、横浜市のマンホールをベイスターズデザインにしたり、横浜市の学校給食に、若手選手寮である青星寮で選手が実際に食べている『青星寮カレー』を提供したりしています。これらは文化としてベイスターズを根付かせるための取り組みの一例です。
──苦労していることはありますか?
河村 今までは『コミュニティボールパーク』化構想を掲げて、いかにお客さんを呼ぶかということをテーマに取り組んできました。
河村 この取り組みは継続しますが、今後はさらに『横浜スポーツタウン構想』を掲げて、より街全体に枠を広げて活動していこうとしています。
そのために、社員数、ご協力いただく外部の方などのマンパワーも増やしながら取り組んでいます。
人が増えたこともありますが、今は第二創業期の状態だと思っていて、今までと同じような意思決定の統一感や、スピード感のレベルを落とさずに継続することが必要になります。
5~6年やってきましたが、これからもう一段階上の取り組みを考えなければなりません。
──最後に、イノベーションを実現させるために、一番大事だと思うことは何ですか?
河村 失敗を恐れずにチャレンジし続けることじゃないでしょうか。
その意味でうちの会社は、挑戦することに対してのハードルは低いと思います。
もちろん、新たな取り組みへの社内説明は必要ですが、挑戦する文化は社内に根付いています。新しいことに挑戦して、仮に失敗してもそれで咎められるということはありません。
新しい挑戦をするのと同時に、既存業務の見直しは常に行っています。業務の取捨選択を常に意識しながら、現在はそれぞれの業務に対して対応できる人材を増やしています。
今の横浜スタジアムの稼働率は96%ですので、お客様を集めて、横浜スタジアムを埋めるという取り組みだけではこれ以上の成長は望めません。今後は『横浜スポーツタウン構想』を掲げて、街全体にエリアを広げて取り組みを進めていきます。
加えて、今の野球の位置づけとして、数十年前と比べると、野球を観たことがない子どもたちも多いと思います。サッカーやバスケなどを好きな子もたくさんいる中で、野球にも目を向かせる地道な活動はこれからも続けていかなければならないと思っています。
おわりに
各球団が球場を新設するニュースを耳にするたびに、ベイスターズもドーム球場を新設してほしいと願うファンの一人だった私です。
しかし、DeNAが横浜スタジアムを改修するというニュースを聞いた時、自分がどれだけ横浜スタジアムという球場を愛していたかということを思い出させてくれました。
小さい頃、父親に連れて行ってもらった、横浜スタジアム。とてもワクワクして、楽しい時間をこの場所で過ごしていた思い出が蘇ってきました。
イノベーションとは、全く新しいことばかりに取り組むのではなく、DeNAのコンセプトの「継承と革新」にもあるように、引継ぐべき部分と、捨てるべき部分の取捨選択を誤らないことが大切なのだと思いました。選択を誤らなければ、お客様自身も忘れていた、潜在価値を見つけることができるかもしれません。
そして、企業規模は関係なく、イノベーションを実現するためには、失敗を恐れずに進む気持ちと、細かなPDCAを繰り返すという地道な作業が鍵であると痛感しました。
イノベーション部として自分も頑張ろうと思うのと同時に、これからも今まで以上に、横浜DeNAベイスターズを熱く応援しようと心に誓ったのでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
投稿者:元吉