Logo
 

児童虐待7

長期間、親子分離になるのは、どうしてか。
児相の言いなりになるのは、どうしてか。

小児脳神経外科医の藤原一枝先生の投稿です。

これまでの記事の一覧はこちら

藤原一枝

藤原QOL研究所 代表

元・東京都立墨東病院脳神経外科医長

愛媛県松山市生まれ。岡山大学医学部卒業後、日赤中央病院(現・日赤医療センター)小児科・国立小児病院(現・成育医療センター)小児神経科を経て、1974年から東京都立墨東病院脳神経外科勤務。1999年藤原QOL研究所設立。2012年からの中学1,2年の武道必修化に対し、青少年の柔道事故死の中に脳振盪軽視があることを分析し、警告を発した。国際的なスポーツ脳振盪評価ツール(SCAT)を翻訳し、公開している。

出版物は「まほうの夏」「雪のかえりみち」(共に岩崎書店)など児童書のほかに「おしゃべりな診察室」「医者も驚く病気の話」「堺O-157 カイワレはこうして犯人にされた!」など。

世界に稀な長い面会謝絶、長い親子分離を強いられる日本
―――子どもにいつ会えるのか?―――

*児童虐待を疑われたときに、誰が助けてくれるのか?

今、日本では虐待の見逃し防止が強調され、通告を義務付けられた保母や教師や医師らが「親との信頼関係を保ちにくい」と訴える状況も生まれています。
アトピー性皮膚炎の症状が強い4歳児がたまたまかかりつけ医でない病院を受診したところ、「こんなひどい症状があるのに、かかりつけ医に行かないのはおかしい」と通告され、10日間一時保護された例もあります。
厚生労働省は、今国会に提出する児童福祉法等改正案に、「常時、弁護士による助言・指導の下で適切、円滑に措置決定などを行えるようにする」を含めていますが、これは専ら児童相談所(児相)の側の任務遂行のための弁護士です。
仕組みのなかに、児相の未熟や不備によって起こるかもしれない「冤罪防止」の視点は、今回の改正案には含まれていません。とにかく人権擁護よりも強権発動、監視社会の色合いが強くなっています。
「虐待親と疑われた親側に立つ弁護士」は打つ手があるのでしょうか?

*都内で発生した乳児4例の“保護状況”

親子分離に至る経緯は以下の通りです。
児童虐待の疑いがあると児相に通告された児童に、身に危険がおよぶ可能性があると判断されると「一時保護(最大2か月)」され、そこで虐待の有無や養育状況などの調査や指導がなされます。そして、最終判定が「措置入所」となると、長期(最大2年)にわたって親子が分離されることになっています。
ここからは、都内の乳幼児の頭部外傷の話です。
ご家族の話だけでなく、開示されたカルテや画像などを医師である私が詳細に検討して、「軽微な家庭内事故から起こった急性硬膜下血腫(中村1型)である」と判断した症例です。
紹介する4例の原因は虐待でなく、(保護者にいくばくかの不注意はあったとしても)事故の例です。入院した病院は都立病院や都立小児医療センターや成育医療センターで、都民だったので、それぞれを担当したのは管轄の都立児童相談所でした。病院も児相も名だたるところです。

ただ、全員特定されたくないとの希望が強いので、月齢や児相名は省きます。2012年から2018年までに措置入所されています。

*4つのケースの問題点

この表でまず気づくのは、「長い面会謝絶・長い親子分離」の実態です。
一時保護されて自宅に戻るまでが、全例100日以上であること
3例は早期に入所措置され、面会謝絶が解除されたのは、17、28、31日目である
ケース1の経過の異常さ
などです。

それぞれのケースの問題点を書き出します。

  1. 児相への「通告」……病院関係者からの「児相に通告しました」と「一時保護(親子分離)されました」を同時に告げられていました(ケース1を除く、全家族が同時に通達されています)。全員、当日まで疑いの視線を感じていません。
  2. 入院から「一時保護」までの期間……ケースによって違いますが、手術例では退院が可能な時期に当たっています。乳児院の空き待ちに合わせて調整していることもあるかと思われます。
  3. 一時保護に不服があり、都知事に審査請求……だれでも可能ですが、だれも行っていませんでした(一時保護決定書の付記:この決定に不服がある場合には、この決定があったことを知った日の翌日から起算して3月以内に、東京都知事に対して審査請求をすることができます) 
    ただただ、みなさん、事態に動転するだけでした。
  4. 一時保護後の数日後には「入所承諾書」にサイン……入所承諾書を拒否した一人以外は、短期間でサインしています。児童福祉司から「乳児はこれが普通です」「そのほうが早く面会できます」と何度も説明され、強要されたのです。
    これは、児福法27条1項3号の措置(いわゆる3号措置)と呼ばれるものです。一時保護をした後、「保護者のもとに直ちに子どもを返すのが適当でないと判断される場合に」長期分離を図るためにとられる措置で、乳児院などに入所させることです。
    その承諾書にある厳守すべき3事項の二つ(住所変更の届けや措置費負担額の納入)以外の「貴児童相談所長の指示に従って必要なことを行います」なる一文が最重要です(これで、保護者は手の出しようがなくなっています!)
    これには期限が明記されていません。「長期分離」の意味を保護者は本当に理解していたのでしょうか? 
    もし、入所を保護者が拒否した場合は、児相が施設入所の承認審判(家事事件手続法234条以下 児童福祉法28条1項)を家庭裁判所に申し立てて、審理が行われます。この時、親権者代理人として弁護士は腕を振るうことができるはずです。(ただ、裁判が長引いて、児の帰宅が遅れることを懸念する人もいます。ケース1参照)
  5. 面会謝絶期間……3例は17日、28日、31日でしたが、入所に応じなかったケース1は約5か月でした。
    面会謝絶が解除されても、だれも面会制限は週1回1時間の面会からの開始で、週2回各1時間という程度にしか解除されていきません。
  6. 入所期間……明記されておらず、予測もできません。
    ただ、全例3か月を超えています。

*虐待を断固否認し、弁護士を雇ったケース1の場合

2017年自宅での転倒事故のあと、頭の手術を要しましたが、術後の経過は順調でした。児相への通告は初期にされたと聞いていましたが、気にせずに付き添っていて、そろそろ退院かという70日目に突然「一時保護」と言われ、面会謝絶になっていました。
すぐさま弁護士も雇い、両親は「虐待ではない」ことを一貫して主張し続けました。弁護士も事態の打開に動きましたが、面会謝絶が4カ月にもなろうというころ、児相が施設入所の承認審判(前出)を家庭裁判所に申し立ててきました。
親権者の代理人として弁護士は手続きに対応しながら、事実経緯や家庭環境などを詳細にまとめるとともに、大学病院小児脳神経外科の医師の意見書を書面で示し、「虐待ではない」と戦う姿勢で臨みました。
ところが、児相の代理人弁護士が、第一回の審理期日に「入所に同意してくれたら、すぐに帰宅に向けたプログラムを開始する(具体的な月単位でのスケジュールも示した上で)」と提案し、「『親が虐待を認めることを条件としない』と約束する」と言います。
このまま争えば、自宅に子どもが戻るのが遅くなるばかりです。早期帰宅を目指すことを最優先し、この案を受け入れました。扱いは、児相の承認審判取り下げです。
その後、児相の提供する「家族再生プログラム」を保護者は受講することになり、しばらくして、なんと約5か月ぶりにわが子に会えたのでした。しかし、会った子はすっかり親を忘れていました。
そして、児相からは謝罪の一言もないまま、「解除通知」が来たのは、一時保護から1 年1か月後でした。

*3号処置を承知で、弁護士を雇わなかったケース2

ケース2の親御さんは言います。
「ケース1の経過を知っていましたが、強要され12日目に承諾書にサインし、20日目に入所になりました。児童福祉司とのやりとりから、児相に『介入・指導マニュアル』があり、個別の対応はないと感じています。100日を越える入所とわかっていたら、初期の対応は違っていたかもしれません(突破できたかどうかは分りませんが)」

*私たちの今後の取り組み

まず、「長期の面会謝絶」は何のためだったのでしょうか?
今回は省きますが、私は児相の提供するプログラムも、児相の面子のためだけにあるような気もします。
「親が虐待を認めることを条件としない」も失礼千万です。一般に審査請求も受理されがたく、「時間を取り戻せない」焦りの中で、入所の段階での裁判にしかチャンスがないのです。その権利をむざむざと放棄させられている現実があります。
もっと早期に、やはり「一時保護が是か否か」を審査する必要がありそうです。そして、児相側ではなく、「児童側の状況を代弁する弁護士」の出番を増やすべきでしょう。
また、愛着形成の大切な期間を分離された子どもの立場に立つと、長期の面会謝絶・面会制限は人権蹂躙です。
ケース1の子どもは実際、入所していた乳児院でも、転んだり叩かれたりして、顔面や頭部に外傷を負ってもおり、児相の言う「安全な場所での安心な保育」が提供されていたとは言えないのです。
さて、東京都議会は2019年の第一回定例会で、第99号議案として「東京都子供への虐待の防止等に関する条例」を審議採択します。問題は多岐にわたりますが、私どもは「乳幼児に対する面会謝絶期間が長すぎる」ことに絞って、関連委員会に問題提起をしたところです。成果が出ることを願っています。